解任取締役からの賠償請求の対応事例
解任取締役からの賠償請求の対応事例
喧嘩を売られても相手を思いやる社長
ある日、人材派遣業をしているA社のR社長が訪ねてきた。私とは昔からの飲み仲間である。
松江「社長、久しぶりじゃないですか、最近お互い忙しくて飲みに行っていませんね。」
R社長「先生、寂しいですよ。六本木のあのお店、最近可愛い子入ったんですよ。また行きましょうよ。」
おやじ的会話であるが、R社長は女性である。そして六本木のお店の可愛い子というのはもちろん男の子である。行く先々で豪遊するので、『六本木の夜の女王』とまで言われている人物である。私は、男の子はともかく、明るいお酒が好きなので、飲むと楽しく店の男の子たちと豪快に大騒ぎするR社長は大好きである。
R社長「先生、実はね、私、5年も会社経営を一緒にやってくれてた取締役のBさんと先日喧嘩しましてね。『そんな考え方では、一緒に経営していけない。根本的な経営改革のアイデアを出してくれるか、やる気がないなら、担当している部署を閉めるか、減俸させてくれ』と言って別れたんです。そしたら、3日もしないうちに、Bさんの代理人だという弁護士から内容証明が送られてきて、損害賠償として500万円払えっていうんですよ。もうびっくりしちゃって・・・。」
R社長が持参した内容証明を読んでみると、「B取締役はR社長から不当に正当事由もなく解任された、ついては、任期満了までの取締役報酬500万円(50万円の10か月分)を支払え」というものである。
松江「社長、いつ解任したの?」
R社長「だから、先生、解任してませんって。よく考えてくれって言っただけなんですよ。」
松江「ふーん、で、どうするの?」
R社長「彼もこんな喧嘩を売ってくるようでは、もう私と一緒にやっていく気はないんでしょうね。でも、私はこれまでの彼との5年の月日をこんなことで幕引きしたくないんですよ。500万円は無理ですが、いくらか支払ってでも円満に別れたいんですよ。」
R社長の気持ちはわかるが、先方は完全に戦闘態勢である。円満に解決するためには、さて、どうしたものか・・・。
ここであらためて原理原則論から
会社法339条によれば、会社の役員は株主総会の決議でいつでも解任できる。A社は、R社長がすべての株式を持っている1人会社であるので、まあ、株主総会といっても、R社長が独り言を言っていれば終わりである。
極端な話に聞こえるが、実は日本の株式会社などはほぼこのレベルである。会社法も非公開会社の実態を踏まえて、その300条で、「株主の全員の同意があるときは株主総会の招集手続きを省略できる」としている。考えてみれば当たり前のことではあるが・・・。
さて、そこで、解任の正当理由であるが、法はいつでも解任できるとしておきながら、正当な理由のない解任がなされた場合には、取締役が損害賠償請求できることを認めている(前出339条)。
賠償の範囲は、取締役の任期満了までの報酬額という場合が多い。その点では、Bさんの請求はまあ、間違ってはいない。しかし、解任もしていないものをどうするかである。
正式な解任通知の作成と交渉
先方の代理人と話をしてみたが、解任されたことは事実であり、損害賠償の請求権があるといって譲らない。「解任していません」といって言い合うのも、なんだか馬鹿らしくなってきたので、円満にと言い張るR社長を説得して、逆にこっちから正式な解任通知を作成することにした。
裁判例上、取締役を解任するのに「正当な理由」とされているのは、以下のような場合である。
- 1.法令、定款違反の行為があった場合:例えば、会社のお金を横領してしまったとかが典型である
- 2.重篤な病気で職務執行が不可能となっている場合
- 3.経営手腕が欠如していて、経営能力が欠損しているとしか認められないような場合
ただし、3はただミスを犯した位では難しい。ケース・バイ・ケースではあるが、明らかな経営手腕の欠如や、役員としての適格性を欠くなどの事情がいろいろ指摘できないと厳しいであろうと思われる。
本件では詳細を聞いてみると、Bは2年前に新しい業態を企画して、その責任者となったがまったく業績が上がらず、会社はその業態からはわずか1年で撤退を余儀なくされていた。困ったR社長は業績の良かった部署の経営をBに任せてみると、今度は半年間、売上をまったく上げず、その部署も風前の灯となり、やむなく優秀なR社長の部下であるCを補佐としてつけたところ、Cをスパイ呼ばわりしてクビにしろと言ってきたのであった。Cまで巻き込んだ半年のすったもんだの後、結局、冒頭の喧嘩となったのである。
A社としては、売り上げを2年間全く上げられないなどの結果からBの経営手腕には根本的な欠陥があること、また業態の縮小や年俸の減額、そして会社としての利益擁護の話し合いに耳を貸さないどころか、してもいない解任を争ってきたことで、関係修復は難しいと考えた。そのため解任するという解任通知の原案を相手方に送り付け、「円満に辞任してくれるなら、解任はせず、解決金として報酬の2ヵ月分に当たる100万円を支払う」と提示した。
相手方代理人と散々やりあった結果、相手方も、正式に解任通知を出された場合の危険を考え、150万円であれば、手を打つといってきたので、これで合意して円満に辞任をしてもらい、150万円を解決金として支払うことで合意した。
愛憎同居するR社長の本音
R社長「私たちの5年をこんなかたちで終わらせることは不本意ですが、仕方ないですね。寂しいわ・・・。」
松江「なんか、失恋したような言い方ですね。」
R社長「だって、本当の『彼』だもん。」
松江「え、そ、そうだったんですか・・・。いや、社長とても美人なのになさることがすっかり『おやじ』なので、実は心配してたんですが、とても、普通の方だったんですね。ホッとしました。」
R社長「先生、そりゃないですよ。私、7年も前に離婚したけど、小学2年生の息子の母よ。」
松江「えーっ、じゃあ、幼稚園児抱えて、六本木の夜の女王やってたわけ?参りました・・・。」
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