契約書で見落としがちな重大ポイント7
最大14.6%? 契約における遅延損害金の利率について
契約書で見落としがちな重大ポイント7
最大14.6%? 契約における遅延損害金の利率について
支払いが遅れると遅延損害金が発生するのはご存知のことと思いますが、その利率まで確認されていますか?
- ・遅延損害金の法定利率が現在は何パーセントに変わっているか
- ・遅延損害金の利率には「29.2%」、「上限はなし」等の世界があること
- ・2020年4月以前に締結した契約書は法定金利が一律でないこと
遅延損害金の正確な知識を知らないと大きなトラブルに発展したり、予想外に大きな負債を負ってしまうことがあります。
この機会に、遅延損害金について確認していきましょう。
目次
1.はじめに
契約書には、「遅延損害金」に関する定めが記載されることがあります。
この遅延損害金は、契約書では「年○%」という具合に、利息としての利率が定められますので、普段扱う契約書で目にすることも多いと思います。
しかし、その利率について、3%となっていたり、5%となっていたり、あるいは14.6%と記載してあったりと、いろいろな数字が出て来ますので、一体どの数字を記載するのが良いのか、迷うこともあると思います。
遅延損害金の利率に関する法律上のルールついては、意外と知られていないことが多く、そのせいで大きなトラブルに発展したり、予想外に大きな負債を負ってしまったりすることがあります。
この機会に遅延損害金とその利息に関する法律上のルールを押さえてしまいましょう。
2.そもそも遅延損害金とは
まず、そもそも「遅延損害金」とは何を指すのかを押さえておく必要があります。
2-1.金銭債務だけに発生する
遅延損害金は、その名の通り債務を「遅延」した場合における「損害金」のことですが、ここでいう「債務」とは「金銭債務」つまり「お金を支払う債務」を指します。
例えば、物を売買したときの代金を支払う「代金債務」や、借りたお金を返す「貸金債務」のことです。
こうした債務について、「遅延した場合には年○%の利息が発生しますよ」という、いわば一定の損害賠償金を無条件で発生させるため、予めその利率を決めておくものです。
利息のような定め方をするので、「遅延利息」とも言います。
「○%」という利率で定めるわけですから、当然ながら具体的な元本額は最初から決まっている必要がありますので、「○○○万円を支払う」という、金銭債務だけに発生するわけです。
2-2.通常の「利息」との違い
「遅延損害金」または「遅延利息」は、金銭債務を遅延した場合に発生するものであり、いわば債務不履行・契約違反によって生じる損害賠償の一種です。
したがって、例えば「金銭消費貸借契約」(お金を借りる契約)で、「利息は年○%とする」という利息は、返済期限までに当然予定されている通常の利息ですから、損害賠償ではありません。
遅延損害金はあくまで「遅延した場合」の利息です。
なので、お金を借りた債務であれば、予定された返済期限までに発生する利息が「通常の利息」、返済期限を過ぎても返さなかった場合、その後に発生する利息が「遅延損害金」となります。
3.遅延損害金の2つの利率
遅延損害金の利率には、「法定利率」と「約定利率」の二つがあります。
3-1.法定利率
まず法定利率とは、「当事者が遅延損害金の利率について特に定めなかった場合」の利率です。こうした場合、民法404条2項により「年3%」の利率になります。
つまり契約書で、遅延損害金やその利率について何も記載しなくても、自動的に遅延損害金として年3%が発生するのです。
ところで、民法改正前は、商事取引についての法定利率は「年6%」とされていましたが、民法改正に伴って廃止され、現在は全て「年3%」となっています。
もっとも、民法改正前、つまり2020年4月以前に締結した契約では、年6%となる場合があるので注意が必要です。こうした場合は弁護士に相談して適用される利率を確認された方が良いでしょう。
3-2.約定利率
他方、「約定利率」とは、当事者が契約で合意した利率のことです。
この約定利率が定められた場合は、約定利率が法定利率に優先し、仮に法定利率を超える場合でも約定利率が遅延損害金の利率となります。
したがって、例えば「年10%」という約定利率が定められている場合は、利率は年3%ではなく、年10%となります。
4.利率の上限と14.6%という数字の出処
このように、当事者が利率を独自に定めれば、約定利率としてそれが優先されますが、一定の類型の契約の場合には、利率の上限が法律で決められています。
4-1.事業者と消費者の間で締結された金銭消費貸借以外の契約では、利率は「14.6%」
まず、遅延損害金の利息で、よく「14.6%」という数字を目にしますが、これは消費者契約法という法律で規定された一定の類型の契約における遅延損害金の利率の上限です。
すなわち、消費者契約法9条2号では、事業者と消費者の間で締結された金銭消費貸借以外の契約における遅延損害金の利率の上限は14.6%とされており、これを超える部分は無効とされています。
例えばクレジットカードのショッピング利用の規約などでは、遅延損害金の利率を年14.6%と定められていることが多いですが、それはこの法律のためです。
4-2.金銭消費貸借契約では、利息制限法と元本額によって利率の上限が変わる
次に、金銭消費貸借契約では、遅延損害金の利率は、利息制限法4条により、利息制限法1条に定める上限利率の1.46倍とされています。
利息制限法1条は、金銭消費貸借契約における、上記2-2で説明した「通常の利息」の利率を定めたものですから、遅延損害金の利率は通常の利息の利率のさらに1.46倍となるということです。
具体的には以下の数字になります。
- 元本の額が10万円未満の場合
- 元本の額が10万円以上100万円未満の場合
- 元本の額が100万円以上の場合
通常の利息の利率:年20% 遅延損害金の利率:年29.2%
通常の利息の利率:年18% 遅延損害金の利率:年26.28%
通常の利息の利率:年15% 遅延損害金の利率:年21.9%
そして、こうした上限にはさらに例外があり、利息制限法7条1項により、金融業者による貸付けの場合には、年20%が上限となります。
4-3.その他の契約では利率の上限が無い?
上記のように、「事業者と消費者の間で締結された金銭消費貸借以外の契約」では、遅延損害金の利率の上限は、消費者契約法によって、14.6%とされ、「金銭消費貸借契約」では、利息制限法上と元本額によって利率の上限が変わってきます。
では、これらに当てはまらない契約ではどうなるのでしょうか。
例えば、企業同士で交わされた製品の売買契約における、代金債務の遅延損害金の利率の上限はどうなるのでしょうか。
答えは、「上限は無い」です。
意外に思われるかもしれませんが、消費者契約法に定める契約にも、利息制限法に定める金銭消費貸借契約にも当てはまらない、その他の契約における遅延損害金については、利率の上限は無いのです。
したがって、法律上は「年80%」といったような、超高額の利率を定めることも不可能ではありません。
4-4.あまりに法外な利率は無効とされる場合もある
とはいえ、無制限に高い利率がどこまでも許されるというわけではありません。
本来は、「契約自由の原則」により、どのような内容の契約を結ぼうが当事者の自由であり、自由意志で契約したことには法的に拘束されるのが法の原則ですから、遅延損害金の利率についても、自らの意思で合意して契約したのであればそれに従わなければなりません。
しかし、民法90条では「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする」と定められており、いくら当事者間で合意したものであっても、反社会的な内容だったり、あまりに非現実的な内容だったりした場合は無効と評価される場合があるのです。
したがって、遅延損害金の利率の場合も、契約の具体的な内容や状況からあまりに法外な利率となっている場合は、無効と評価される場合があります。
どの程度であれば無効となるかはケースバイケースなので一概には言えませんが、もし検討中の契約書や、既に締結してしまった契約書で、「契約書記載の利率は高すぎるのではないか」と思われる場合は、一度弁護士に相談してみると良いでしょう。
5.おわりに
いかがでしたでしょうか。
契約は、きちんと履行してなんぼのものですから、本来は遅延などあってはならないことですが、いざ遅延が生じた場合の取り決めは非常に重要です。
この遅延損害金については、利率があまり高くなくて、かつ遅延した期間が短ければそれほどの金額にはなりませんが。もしそれなりの利率が定められていて、遅延した期間が長期になる場合は、双方にとって予想外の損害となる場合も少なくありません。
このように、遅延損害金については意外と無視できませんので、それに関する法律上のルールを予め押さえ、もし何らかの疑問点やトラブルが生じた際には早いうちに弁護士に相談された方が良いでしょう。
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