建築業者が知っておくべき相隣関係トラブル対処法
建築業者が知っておくべき相隣関係トラブル対処法
建物の建築工事を初めて見たら、隣地から、そんなにこちらの建物にくっつかないでくれといわれてしまった。隣地こそずいぶん境界線にくっついているのに、そんな事言えた義理なのだろうか。
また、工事が完成してから隣地より、その窓からこちらの敷地が丸見えだ、目隠しをつけてくれと言われてしまった。直してもいいのだけれど、施主は絶対に嫌だと言っている。さて、どうしたらいいのか板挟みになってしまう事ってありませんか。
こういった場合の対処方法を考えてみましょう。
離れと目隠しのトラブルは建築業者にとって、なぜ大問題なのか
日本の国土はとにかく狭いので、建物を建築するとなると、近隣との軋轢が生じることはしょっちゅうです。よくあるのは、表題に掲げた、隣地との離れの問題、観望制限の問題です。いずれも、広い地域に、十分な距離をもって建物が建っていれば関係の無い話ですが、狭い地域に住宅が密集する日本の現状では、住宅街で普通によく見かけるトラブルです。
特にここでは、マンションと違って一戸建ての建物につきものの問題に限って考えてみましょう。元々住んでいる人も居住の環境を確保する権利があり、また新しく家を建てて住まう人にも同様の権利はあります。この点だけを考えれば、私人対私人の権利の譲り合いがどう実現できるかという問題だけなのですが、建築業者にとってこの問題が甚大なのは、近隣と揉めているとそもそも工事が進められないという事態がおきますし、さらには揉めていることがわかれば買い手が付かないことになってしまうからです。営業利益の観点からも、資金繰りの観点からも見過ごせない問題です。
民法の基本的な考え方 : 相隣関係
民法は、こういった近隣トラブルについて。209条から239条において、「相隣関係」として、その権利の調整を図っています。ただ、これらの条文が無敵かというとそうでもないのです。
たとえば、「家」といっても、皆お豆腐のような形を一律にしているわけではありません。家の離れの問題一つをとっても、50センチ離せと言うが、家の境はどこでとるのか。壁か、庇は、出窓は、クーラーの室外機は?言い出しすとキリがなくなってしまいます。
民法が用意した条文については、その立法された意味を考えながら、適用される範囲を考えていかないといけないのです。たった、二十何条かの条文で、近隣トラブルすべてに対処しようというのですから、いきおい、抽象的、包括的な規定になっていることは想像に難くないでしょう。これを一つ一つ、裁判例を手がかりにしたりしながら、読み解いていかないとならないのです。
離れの問題
民法234条は、「建物を建築するには、境界から50センチ以上離さなければならない」としています。建物を建てる工事に着工したら、隣から、「あなたの建物は境界から50センチ離れていませんよ、もっと離してください。」と注意される、と言うのがよくある問題です。
では、もし、そう言ってきた隣地の方も50センチ離れていなかったらどうなのでしょうか。お互い様だから言えないのか、建ててしまった方は既得権で、新しく建てる方だけが適用されるのか、条文だけ見ていたらわかりません。ここで、立法趣旨は何なのかというと、よく言われているのは、良好な住環境の確保と、災害時などの消防的な観点です。
ただ、これだけでも、一概には言えないのですよね。もう30センチきちきちくっついているのであれば、こっちが50センチ離さなくても住環境の点を考えるのであれば、いまさらで、いいのではないかというようにも考えられます。しかし、災害時の対応を考えると、人が通り抜けられたり、消防機器が通るためには、こちらまで離れを守らないような事になるといよいよ危ない、ということになれば、やはり、離せという事になります。
具体的には、その地域の状況や、双方の建物の状況を見ながら考えざるを得ません。
こういう観点から見ると分かってくるのが、出窓や、物置です。出窓はやはり、通行の妨げになりますので、建物の一部となりますが、物置については、可動性があるかどうかで、建物に含まれるかどうかが別れているようです。これなどやはり、防災上の観点が強く影響していると思います。
目隠しの問題
次に観望制限の問題ですが、民法は235条で、境界線から1メートル未満の距離において他人の宅地を見通すことのできる窓、または縁側を設けるものは、目隠しをつけなければならないとしています。
ここでも、上記と同じように、隣地も1メートル離れていない窓をもっているのに、当方にだけ文句を言ってきているがどうしたらいいのだという問題は出てきます。この場合は防災上の観点ではなく、良好な住環境の問題ですので、後から建てた方が目隠しをつけた上で、さらに、先に立てた方に目隠しを要求すれば、認められる事になります。勢い、町中に目隠しが経つような気がしますが、事実です。
業者としての問題の処理のあり方
さて、一番大事なのは、建築業者として、この問題を現場でどう処理するかです。業者として守らなければ成らないのは施主の利益です。では、何に気をつけたらいいのでしょうか。債務の履行の段階に沿って考えてみましょう。
不動産の仕入れ段階から始まって、建築段階で問題が発覚した場合
この場合、揉めている間は施主に引き渡しができません。解決しないと、居住に支障のない建物が建ったという事にならないからです。建物の建築を行いながら、鋭意隣地との調整に走らないと行けません。
売買契約成立から決済までの間に問題が発覚した場合
これも、問題を抱えたままでは決済ができません。しかし、問題を処理するまで決済ができないとしても、家屋自体は建っているわけですから、施主がとにかく住みたいと言えば、引き渡して所有権を移転することも必要です。こうなってくると、問題を施主に引き継がせることになりますので、詳細な合意が必要になります。
売却後、問題が発覚した場合
これが一番問題です。瑕疵担保責任・あるいは債務不履行として責任を問われる可能性があるからです。それを避ける為には、ともに隣地と向かい合い、問題を一緒に処理しているという態度をきちんと維持する事が大切です。そうでないと、施主の方から責められてしまいます。
まとめ
結局建築業者として大切なのは、近隣との問題は商品の仕上げ工程だと思って取り組むという姿勢であるといえます。施主と一緒になって、いい家を作るという姿勢を貫き続けることが大切です。
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