契約書で見落としがちな重大ポイント3
契約書の損害賠償条項
契約書で見落としがちな重大ポイント3
契約書の損害賠償条項
契約書で記載の損害賠償条項は、確認していますか?
もちろん損害賠償条項は、不測の事態にしか発生しないものではあります。しかし、不測の事態があってから確認するのでは遅く、さらなる悲劇を招いてしまうこともあります。
損害賠償が発生する状況やルールなどは契約書によって異なる場合があり、今後のご契約関係を良好に進めていくためにもぜひご確認ください。
目次
契約書の損害賠償条項は確認していますか?
契約で定められた債務が履行されなかったり、あるいは故意や過失によって契約相手に損害を与えたりした場合は、損害賠償を請求することになります。
企業が交わす契約書においても、こうした損害賠償請求についての条項を設けることが多いのですが、その内容によく注意して契約を締結しないと、後になって実際に損害賠償が問題になってから、「こんなはずじゃなかった」、「予想外の賠償を負わされた」、あるいは「全然賠償がされなかった」といったように、不測の事態が生じてしまいます。
本稿では、こうした損害賠償請求と契約書の条項について確認すべき点などを解説していきます。
損害賠償条項は必ずしも書かなくても良いのか?
この記事のタイトルを見て、「ついさっき、損害賠償の条項に注意しないと不測の事態になると言っていたじゃないか」と思われるかもしれません。しかし、損害賠償の条項は、必ずしも契約書に載せる必要はないのです。
そもそも損害賠償請求の権利は、民法に規定されており、その民法で定められた要件(条件)を満たすのであれば法律上当然に損害賠償を請求できるので、契約書には記載しなくともいいのです。
まずは民法のルールを押さえる
損害賠償が認められるための要件(条件)は4つ
民法という法律では、あらかじめ損害賠償請求について規定があります。そして、損害賠償が認められる要件は以下の通りです。
- 債務不履行(契約違反)の事実があること
- 債務不履行に帰責事由(故意や過失)があること
- 損害が発生していること(※通常損害であることが原則、特別損害の場合は、特別の事情が予見または予見できた場合に限る)
- 債務不履行と損害の間に因果関係があること
損害が発生している状況の「通常損害」「特別損害」とは?
「通常損害」というのは、その債務不履行によって、その名の通り「通常」生じる損害のことです。
例えば、とある機械を製作し、取引先に納入している会社が、その機械に必要な部品をまた別の会社から購入したものの、部品に欠陥があった場合、その部品を修理したり取り替えたりして対応しなければなりませんので、そのためにかかった費用は「通常」生じる損害と言えます。
その一方で、特別損害とは、「特別な事情」に基づいて生じた損害です。先ほどの例で言うと、部品の欠陥に対応していたばかりに機械の製作が大幅に遅れてしまい、取引先への納期を過ぎて取引先からの信用を無くし、その後の取引を全て打ち切られてしまったことによる損害が発生した場合がこれにあたります。これは「部品を使って機械を製作して納入するのが遅れ、結果取引先との今後の取引が無くなってしまった」という特別な事情に基づく「特別損害」といえます。この損害を賠償請求できるのは、債務者(この場合は部品を納めていた会社)がその特別な事情を予見または予見できた場合に限られます。
契約書で定めれば民法と異なるルールを決めてもOK!
民法上も一定の要件のもとで損害賠償請求ができることが認められているので、その限度であれば、わざわざ契約書に記載する必要はありません。
では、なぜ契約書に損害賠償請求の条項を記載するのかというと、それは「民法とは異なる要件でも請求できるようにするため」です。
そんなことが許されるのか、と思われるかもしれませんが、民法とはあくまで民間人同士の法律関係について、「特別な合意がなければこのようになるよ」と定めているに過ぎないので、当事者間の特別な合意、つまり契約があれば、よほど反社会的な内容や過剰な内容でない限りは、あえて民法と異なる定め方をすることも許されるのです。
故意や過失の有無にかかわらず損害賠償請求が認められるとき
甲又は乙は、本契約に違反して相手方に損害を与えた場合には、故意又は過失の有無を問わず、相手方に対し、その損害を賠償しなければならない。
民法上は故意または過失という要件が必要ですが、こうした条項が契約書で定められた場合は、故意や過失の有無にかかわらず損害賠償請求が認められることになります。
損害賠償請求をする側にとってはとても有利な内容ですが、反面、請求される側にとっては反対に非常に厳しい内容となっています。
故意の場合に限って損害賠償請求が認められるとき
甲又は乙は、本契約に違反して相手方に損害を与えた場合には、故意の場合に限り、損害賠償を請求できる。
この場合は、故意の場合に限って損害賠償請求ができることになりますから、過失の場合は請求できないことになります。
損害賠償請求をする側にとっては不利な内容である反面、請求される側にとっては有利な内容となっています。
通常損害のみ損害賠償請求が認められるとき
また、民法上は「通常損害」及び「特別の事情が予見または予見できた場合に限った特別損害」のみ損害賠償の請求ができます。
しかし、以下のように定めたときです。
甲又は乙は、本契約に違反して相手方に損害を与えた場合には、現実に生じた通常損害に限って、相手方に対し、その損害を賠償しなければならない。
このような条項の場合は、通常損害のみ賠償請求でき、特別損害の場合は、例え特別事情が予見できた場合でも請求できないことになります。
損害賠償の金額を最初から決めてしまうこともできる
損害賠償請求については契約書で民法とは異なる定め方をすることもできますが、もっと直接的に、損害賠償の金額を予め決めてしまうこともできます。これを「損害賠償の予定」といいます。
当たり前の話ですが、損害賠償請求は、通常損害にせよ、特別損害にせよ、実際に生じた損害の額を請求していくことになります。
しかし、契約書で以下のように定めることもできます。
第〇条に違反した場合の損害賠償の金額は100万円とする
この場合、実際に生じた損害の有無や額にかかわらず、一律に100万円の損害賠償が請求出来てしまいます。例え実際の損害額が1万円であっても、逆に1000万円に上ったとしても、請求できるのは100万円のみです。
そんなことが許されるのかと思われるかもしれませんが、こうした「損害賠償の予定」は、民法でも認められています。ただし、あまりにも過剰に高い、あるいは低い金額だったりした場合は無効とみなされる場合もありますので、弁護士へご相談ください。
さらに、不動産の売買契約書では、「違約金」という形で、こうした損害賠償の予定が定められることが多々あります。よく見るのは「本契約書の規定に違反した場合は、違約金として売買金額の20%の金額を支払う」というような条項ですが、契約違反の事実があると、損害の有無や額にかかわらず、一律20%の違約金が発生してしまいます。違反者にとってはかなり重い責任ですが、逆にこのような条項を設けることによって、契約をきちんと守らせようという趣旨があると思われます。
契約書の損害賠償請求の条項がはたして有利なのか不利なのか、慎重に検討しよう
以上の通り、契約書で民法とは異なる条項を定めることもできる例をいくつか挙げましたが、あくまで一例ですので、条項のあり方は、当然これだけではありません。
他には、例えば「損害賠償を請求できる期間を3年間とする」と定めたり(※民法上の期間は10年間)、損害賠償の利率を年5%としたり(民法上の利率は年3%)することも可能です。このように、損害賠償請求の条項のあり方は、それこそ千差万別あり、立場によって、有利にもなれば不利にもなります。
したがって、取引先と契約書を締結する際は、どのような損害賠償請求の条項となっているか、民法上の規定とどのように違っているか、その条項が自分達に有利に働くか、それとも不利に働くか、という点を慎重かつ綿密に検討しなければなりません。
そのためには、民法やそれに関連する裁判例の知識が必要になってきますので、契約締結する前に弁護士に相談することをお勧めいたします。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
冒頭の通り、損害賠償請求の条項については、内容によく注意して契約書を締結しないと、後になってから不測の事態が生じてしまい、場合によっては大きな損害を負ってしまう可能性もあります。
今後、重要な取引の契約書を締結する場合は、慎重に検討することが必要ですが、いったん締結してしまった契約書でも、改めて問題点を浮き彫りにした上で、契約の更新のタイミングや交渉次第で新たな内容で締結し直せる場合もあります。
したがって、やはり一度弁護士に相談した上で会社の業務に関係する契約書を一通り確認してみるといいでしょう。
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