仲介業者が、売買契約を無事決済にこぎ着けるために気をつけるべきこと
仲介業者が、売買契約を無事決済にこぎ着けるために気をつけるべきこと
「家売るオンナ」という、どんな家でも売ってしまう恐るべき不動産仲介営業マンのドラマがありましたが、現実は、「売った」といえるためには契約しただけではダメです。決済まで走り抜けなければ意味がありません。
しかし、契約から決済までには長い道のりがあります。購入者のローンは通るのか、境界の確定はできるのか、手付け放棄で解除されたりしないのか・・・、 などなど。
せっかく不動産の取引を仲介して、「売った・買った」をまとめても、契約が途中で無効だと言われたり、解除されたりしては元も子もないのです。
では、決済までにどういった落とし穴があるのか、またそれを避けて走り抜けるにはどうしたらいいのか、仲介業者として気をつけるべきポイントを学んでいきましょう。
目次
売買契約が取り消されるのはどんな場合か
はじめに
有効に成立していたと思っていた契約が、意思表示に瑕疵(キズのことです)があった場合、あとから取り消されることがあります。これと似ているものに、契約がはじめから無効だったとされる事もありますが、実際の現場では取り扱いに大きな違いはありません。それは、取り消しがされると、契約の効果が訴求的に(遡ってという意味)無効になる事が原則であるため、はじめから無かったことになる無効と差が無い事になるためです。さらには、はじめから無かったことにされるといっても、それが発覚するまでに、関与した人たちの保護のために、場合によっては、一定程度その効果を消させなかったりして、取引の保護を図ったりしているので、両者に事実上余り差異は無くなっています。
具体的にどんな場合が考えられるか
- 意思無能力
- 制限能力
- 意思表示の瑕疵
契約を締結するわけですから、条文はありませんが、そもそも、契約者本人に、不動産を売ったり買ったりすることの意味をわかって許容する能力が無ければ話になりません。こういった能力を意思能力といいます。もちろん、この能力が無ければ契約は無効です。
上記のように、意思無能力とまではいないのですが、例えば子供だったり、精神的に疾患があったりして、できる法律行為が制限されている人がいます。こういった制限能力者の行為は、保護に当たる任務を負っている親権者(子供の場合の親ですね)や、補佐人、後見人が同意により制限能力者の行為をコントロールしていくことになっています。
ただ、未成年者からどうかは年齢を見ればわかりますが、補佐人制度の適用を受けているのかとか、後見人がついているのかなどは一見してわかるものがありません。行為ごとに能力を確認していくしかありません。
意思能力はあるのですが、実際に行った意思表示に、だまされた、脅されたとか、そもそも勘違いしていた、などのキズ(瑕疵といいます)がある場合を規定したものです。
・民法第95条 錯誤無効
Aという家を買おうとして、Bという家を買ってしまったというように、間違えてしまった、という事案です。これは勘違いであり、意思表示に重大な誤りがあるのですから、契約は無効となります。
但し、取引が進行してしまっている場合などは、関係者の保護も必要ですから、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張する事ができないということで保護を図っています。
・民法第96条 詐欺・強迫
上記の錯誤と似ていますが、これは、だまされたり脅されたりして売買契約を結んだ場合で、このような時は、被害者の保護のために、被害者が望めば、契約を取り消すことができることになっています。
・無権代理
契約は代理人によって行うことも可能ですが、代理人だと言いながら、実質は代理権が無い場合には「無権」代理とされ、一定の治癒がされない限り契約は無効となります。代理権が無ければ通りすがりの人と同じですから、本人にとってみたら、勝手に法律行為などされてはたまりませんので当然です。
しかし、本人が、「ああ、その人は確かに代理人ですよ」と追認したりしてくれれば、何も無効にまでする必要はありません。
また、本人が代理人とするつもりはなくても、白紙委任状を代理人と称する人に渡していたりした場合には、それを見せられた相手方は代理人だと思う方が普通ですから、こう言った場合は、代理人だと信じた相手を保護するために、本人から、無権代理で無効だという主張をできなくなるようにしています。これを「表見代理」といいます。
売買契約が解除されるのはどんな場合か
今度は、契約は有効に成立したが、決済前に解除されるような場合を見ています。
手付け解除
これは割と知られていますので、難しくは無いと思いますが、契約の時に支払っていた手付けを放棄することで契約から逃げられるという制度です。逆に、手付けを受け取っていた方は手付けを倍返しすることで、契約から逃げられます。
但し、いつまでもこれができると契約が不安定なままですので、相手方が一定の履行行為に着手した場合には解除はできないとしてバランスを図っています。
ローン条項
買い主が、購入資金として、ローンを利用した場合、ローンが下りるかどうかは、金融機関の裁量次第であり、申込者にはわからないし、責任を問えない事がほとんどです。そのため、契約で定めたローン期限までにローンが下りなかった場合、白紙解約を認める制度です。
但し、「頑張ったけどローンが出なくてかわいそうでしたね、その上、違約金をとりますね」というのはあんまりです。それを防ぐための「白紙でいいですよ」という免責条項ですので、やるべき事はやっていることが必要となります。
たとえば、金融機関への申し込み、金融機関からの追加資料の提出などについては、誠実に対応していたという実績が無いと適用されません。
実践編①契約締結までに気をつけるべきこと
契約締結の前に、まずきちんと物件や当事者の意向を確認しておくことが大切です。
現況の把握
錯誤無効を避けるため、何よりも、当然ですが、物件現況は正しく把握しましょう。現地調査は必須です。
購入者の希望をきちんときく
購入者の思い違いを防ぐため、何をもって、この物件を買おうとしているのか、特殊な建築工法を希望しているのではないか、周囲の環境について特異な希望を持っていないか、そのほかにも何か思い違いはないか、丁寧に確認しましょう。
契約者の氏素性を調べること
未成年者かどうか、未成年者なら、法定代理人の同意はあるのかどうか、戸籍の提出で簡単にわかることですから、きちんと確認しましょう。
同様に、保佐人、後見人がいるような人物かどうかも、調べないといけませんが、これは一見しただけではわかりません。言動等が怪しいようであれば、後見人や補佐人がついていないことがわかる証明(戸籍)を出してもらうようにしましょう。
実践編②契約締結時に気をつけるべきこと
大前提:複数で赴くこと
言った言わないの問題を避けるだけであれば、数いればいいというものでもないのですが、不用意な発言をしてしまう危険を防いだり、あるいは、異常に気づいたときの対処に相談できるなど、メリットはいろいろあります。できるだけ一人で行かないようにした方がいいと思います。
契約者の能力の確認
言動に注意する(一人で契約場所に来ているか、話はきちんとわかっているか、自身で署名押印できているか、などを確認する)必要があります。重要事項説明の際の理解状況なども気をつけて確認する必要があります。
当事者の意思に瑕疵が無いかの確認
錯誤の点については上記に説明したとおりですので、勘違いが無いかをよく話してください。
詐欺、強迫については、同行している人物、あるいは、契約締結に関わっている人物で、不審な人物はいないか、これに注意することも必要です。
代理人による契約の場合
普通は本人が来ます。代理人がなぜ必要なのか、理由を明らかにしておくことが必要です。海外にいるとか、足をくじいて歩けないとか、現実的に「なるほど」と思う理由が無ければ、普通、代理人はつけないのです。そのことをリアルに検証してください。また、前記の意思能力との関係で、代理行為は問題なさそうでも、前提となる代理人への依頼行為そのものを無能力で取り消される場合もあります。こうなると、委任状などを精査しただけではわかりません。
このことからも、何故、代理人に頼まねばならぬ事態なのか、納得のいく説明がつく事案かどうかを見極めることが何より大切なのです。
その上で、代理人への委任の意思の確認を実印・印鑑証明で行うなどして、漏れの無いようにします。もちろん、代理人自身の身分の確認も必要です。
実践編③契約締結後決済までに気をつけるべきこと
契約後、登記におかしな動きは無いか
他人物売買がなされている場合など,別の第三者に売られてしまったりしていることがないかの確認は重大です。決済まで時間がある場合には気をつけていることが必要です。
条件などがある場合にはその成就を確認する
ローン条項がある場合などは、ローン申し込み、審査などの進捗状況が予定通り進んでいるかどうかを細かに確認する必要があります。
私道の利用承諾などが条件の場合は、義務者であれば、滞りなくその取り付け作業を進める必要がありますし、相手方の義務である場合には、取り付けるためのきちんとした活動を相手方が始めているのか、確認しないといけません。境界確定作業も同様です。
あとは、抵当権の抹消がある場合には,抵当権者は稟議を通さないと,抹消書類を社外に持ってこれませんから、これも事前に時間のゆとりをもって、連絡して検討させておくことが必要です。
ここまで注意して初めて無事にゴールにたどり着けると思ってください。
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