取引先が倒産!?商品は?売掛金は?
取引先が倒産!?商品は?売掛金は?
「どうも危ない・・・。」H社長の長年のカン
半年ほど前、紳士服のブランド衣料を扱っているA社のH社長が相談に来た。
松江「世間は春だというのに、社長、なんか暗いですね。」
H社長「先生、私の長年のカンなんですが、どうも、商品を納めている取引先のB社の経営状態が心配なんです。」
松江「具体的にはどんな感じですか?」
H社長「いや、まったくカンなんで、うまく表現できないんですが、取引銀行が地銀から信組になったり、急に手形の決済サイクルを長くしてくれと言ってきたり、担当者が退職しちゃったり・・・。なんか、だからどうだというレベルの話なんですが、嫌な予感がするんですよ。」
松江「それは心配ですね。こういう時はご自身のカンを信じるべきですよ。今どのくらい納品をしているんですか?」
具体的に聞いてみると、B社は卸売業者で、メーカーであるA社は、季節ごとの商品を500万円規模で納入しているが、手形の決済期間は最長で3ヵ月もある。ブランド衣料は早くから生産に入るらしく、今納めようとしているのは、この冬の商品だという。それで、勢い、決済期間も長くなるらしい。
銀行の変更や手形の長期化は危険信号である。H社長と相談した結果、B社に対して、今後納品する商品については、代金決済が終了するまで、商品の所有権はA社にあるという合意を結ぶことにした(「所有権留保」)。B社は散々抵抗したようであるが、同意いただけなければ、これからの冬物商品は納入しないということで押し切った。
恐れていた通りの破産の知らせ
今後の商品には手を打ったが、春先に納入して未払いとなっている秋物衣料の500万円の代金回収を懸念していた矢先の6月頭、B社は不渡りを出し、破産申立をしてしまった。
H社長「先生、やられましたよ。私のカンは当たりました。」
松江「仕掛かってしまったのは、結局あの手形の500万円でしょうか?」
H社長「いや、それと、この前に納入した冬物衣料があります。冬物衣料ですので値が張って、1000万円あります。」
松江「合計1500万円ですか。うーん、とにかく動いてみましょう。望みを捨ててはいけませんよ!」
債権回収の成否は時間との闘い
とにかく、選任された管財人にすぐに連絡してみた。当然のことながら、商品は売却して、総債権者の利益のために破産財団に組み込むという型通りの回答である。面談を申し込み、当方は所有権留保をしていること、これは担保として有効であり、差し押さえを受けたり、破産手続きが起こった際には所有権に基づいて取り戻しができることを説明し、合意書を見せて管財人を納得させた。あとは、A社の納入担当者を同行して、管財人の立ち会いの下、納入伝票と照合して、当方の所有権を留保していた商品については、取り戻しを完了した。
H社長「先生、助かりました。いくら所有権を留保していても、どこかに隠されてしまって、分からなくなっちゃったらどうにもなりませんでしたから、間に合ってよかったです。」
松江「ええ、そうですね。でも、社長、この商品売れるの?」
H社長「大丈夫です。かなり値引かなきゃなりませんが、もともとB社が危ないと思ったときに別の卸業者Cにアタリをつけて今後のパートナーにしようと思っていたんで、そこが引き取ってくれることになりました。」
秋物衣料の行方は?動産販売の先取特権
これで冬物衣料の件は片づいたが、残る問題は、所有権留保を打つ前に納品してしまっている秋物衣料500万円分である。これについては、最後の手段である「動産売買の先取特権」にかけることにした。
商品などの動産を売った者は、その商品の売買価格について、他の債権者に優先して弁済を受けることができる。これを先取特権と言い、担保権の1つである。具体的にはその商品を差し押さえて、競売して売買代金から弁済を受けるのであるが、以前は手続きを開始するにはその商品を持参して裁判所に申立をするか、債務者が差し押さえを承諾する文書を提出するしか方法がなかった。
本件のように破産手続きになった場合にはどちらもなし得るはずもなく、非現実的なものでしかなかった。が、2003年に法改正され、商品を確かに引き渡し、代金債権が発生して期限が来ていることを証明できる文書があれば、申立ができるようになった。破産に対抗する最後の砦として活用されるようになってきた。
A社は、きちんと売買基本契約書や発注書、納品書、請求書を発行しており、商品番号なども正確に把握していたばかりでなく、B社への納品の際の倉庫の状況も確認していたので、この手続きは要件を満たすことができた。倉庫の状況をよく確認していたことは、先の冬物衣料1000万円分を探し出すときにもかなり役にたった。
結局、競売についてもC社が協力してくれたため、3割程度の価格ではあるが、代金を優先的に回収することができた。
ビジネスチャンスとリスク軽減バランス
さわやかな秋風の吹くころ、H社長が訪ねてきた。
H社長「いやあ、今回は肝を冷やしましたが、配当率3%というなかで、我が社だけはかなり回収ができました。本当に助かりました。」
松江「いや、何より、きちんと契約書や伝票を揃えておくことを習慣とされていた御社の業務の丁寧さが決め手でしたよ。商品の納入先の倉庫までいつも同行して確認していた御社の従業員も立派でしたね。」
H社長「でもね、私らこんな風にしつこくするもんだから、結構うるさがられててね。『そんな面倒なことするなら、おたくとは商売しない』なんて言われちゃうこともあるんですよ。」
松江「いいじゃないですか。そんなところをはしょって、リスクを背負い込むことの代償に得られるビジネスチャンスは底が浅いですよ。私は社長のやり方は好きですよ。」
H社長「ありがとうございます。ところで、先生からの報酬請求ですが、実費の部分と、立替金の精算の部分と、えーっと、出張旅費の部分と日当のここのところがこうで・・・」(どさっと、請求書を広げる。)
松江「ううう、細かい・・・。」
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