建物の明渡しを円滑に行う方法
建物の明渡しを円滑に行う方法
建物を貸している場合、借り手が賃料を払わない、騒ぐ、汚す、勝手に第三者に又貸しする等、とてもではないがこれ以上は貸せないので、出て行って欲しい、となってしまうことはよくあります。
また、借り手のせいではないのですが、老朽化や、あるいは自分自身での利用のためなどの理由で出ていってもらいたい場合もあります。
こういった場合、一体どうすれば、円滑に明け渡しを受けることができるのでしょうか。段取りを間違えると、無駄に時間ばかりがかかってしまい、法外なお金を請求されることにもなりかねません。円滑な明け渡し方法を身につけましょう。
目次
まずは契約を終了させる
不法占拠等であれば別ですが、通常は何らかの賃貸借契約を結んだ上で建物を貸していますから、賃借人は建物を借りる権利があります。
したがって、建物の明渡しを求めるためには、まずその契約を文字通り「終了」させることが必要となります。
これは建物の明渡しを行う上で最も基本かつ重要なことなので、しっかり抑えておく必要があります。
ではどんな場合に契約を終了させることができるのか、ですが、主に以下のようなパターンに分けられます。
- 契約の解除
- 契約の中途解約
- 契約の更新拒絶
- 契約の合意解除
契約の解除について
最初に契約の解除についてですが、これは賃借人の債務不履行つまり契約違反によって解除させることを意味します。例えば、
- 賃料不払い
- 用法違反(騒音などの迷惑行為も含む)
- 無断転貸
などがあります。
催告した上での解除が原則
まず注意しなければいけないのは、こうした事情が起きた場合、すぐに契約を解除させられるわけではないということです。
民法上、債務不履行つまり契約違反が起きたとしても、まずは「催告」(一定期間の猶予を設けて契約を守るよう申し伝えること)をして、それでも改善しない場合に初めて解除ができるのが原則なのです。
賃料不払いでいえば、「○日以内に未払い賃料○○円を支払ってください」と言い、それでも支払わない場合に初めて契約の解除ができるのです。
なお、こうした催告は、解除をなす上での条件となりますので、必ず後で催告をしたという事実が証明できるような手段、例えばメールや内容証明郵便等で行うようにしましょう。
重大な違反の場合や催告しても無意味な場合は無催告解除が出来る場合も
しかし、重大な契約違反の場合や、催告しても改善する見込みが無い場合は例外的に催告しないで直ちに解除(無催告解除)が出来る場合もあります。
例えば、相当長期間にわたる継続した賃料不払がある場合や、賃借人が予め改善するつもりの無い意図を明確にしている場合、等です。
ケースバイケースなので、まずは弁護士に相談すること
無催告解除が問題となった多くの裁判例では、
「賃貸借関係の継続を著しく困難ならしめるような背信行為があるかどうか」
という観点で判断していますので、結局はケースバイケースということです。
なので、実際に無催告解除できるかどうか、仮に催告を要する場合はどのような手段や内容にすれば良いか、については、弁護士によく相談した方が良いでしょう。
契約の中途解約について
これは、賃借人に別に債務不履行や契約違反はないけれど、契約書で「○○ヶ月前に解約申し入れすることによって終了する」というような条文がある場合にそれにしたがって契約を終了させる手続ですが、以下のような注意点があります。
期間は6ヶ月前から
予告期間として、借地借家法第27条第1項に定める「6か月前」を下回ることはできない旨定められています。
「正当の事由」が必要
さらに、借地借家法第28条で、貸主からの中途解約の場合には「正当の事由」 が必要とされています。
どんな場合に「正当の事由」があるといえるのか、これまたケースバイケース となりますが、主に以下のような要素から判断されます。
- 建物の使用の必要性(居住や営業、売却の必要性等)
- これまでの賃借状況(契約締結の経緯・事情、内容、賃借人の契約履行状況、賃料の状況等)
- 建物の賃借人にとっての必要性
- 建物の現況(建物の経過年数・残存耐用年数、耐震性、老朽化や損傷の程度、大規模な修繕の必要性の有無やその費用、当該地域における適合性等)
- 立退料や代替物件の提供の有無、内容
これらの要素は相互に絡み合っており、例えば①明渡しを求める理由が甚大且 つ急務であればあるほど、③賃借人にとっての必要性が低ければ低いほど、⑤の明渡し料は低くなる傾向にはあります。
契約の更新拒絶について
普通借家契約つまり契約期間の自動更新がある借家契約の場合、期間満了後の更新を拒絶し、それにより契約を終了させる手続ですが、以下の注意点があります。
期間満了の1年前から6ヶ月前までの間に行うこと
借地借家法26条で、「当事者が期間の満了の1年前から6月前までの間に相手方に対して更新しない旨の通知又は条件を変更しなければ更新しない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす」と規定されていますので、期間の満了の1年前から6月前までの間に行うことが必要となります。
正当の事由が必要であること
契約の中途解約と同様、正当の事由が必要となります。具体的な内容については、上記2(2)をご参照ください。
契約の合意解約について
これは、法律上の制度に基づく契約終了ではなく、当事者間で合意して契約 を終了させることですから、終了期間や内容は基本的に自由です。つまり新たな契約を結ぶのと同じです。
通常、契約の終了と同時に建物の明渡しについても合意することになりますから、明渡しの時期、内容、条件等についても詳細に交渉して申し合わせ、合意した内容を書面にしてお互いに署名押印して取り交わす方が良いでしょう。
実際にどのようにして交渉していけば良いかについては、老朽化による立て替えの明け渡し交渉を例にして説明していきます。
- ヒアリング
- 次に賃貸人側から条件を提案
賃借人はどうしたいのか、何を望んでいるのかを詳細に聞き取ることが大事です。
立て替えるなら一旦出ても戻りたいのか、それともこれを機に引っ越すのか、等、いろいろな要望があると思います。
どのような条件を提示するかは、賃貸人の経済的・社会的事情に関わるので、一概には言えませ んが、少なくとも賃借人が納得できるだけの条件を提示することが必要となります。
なお、いわゆる巷で囁かれている明渡し交渉として、家賃の5ヵ月分~10ヶ月分を支払えば良いかのような話がありますが、法的根拠は全くありません。
これで出て行ってくれればめっけものなので、まずは(あまり期待しない程度に)この程度の提示は行ってみても良いとは思いますが、先方に法的知識があれば、これではすまないことは念頭に置いておくべきでしょう。
以上のようにして、契約を終了させた後は実際に建物から退去してもらうことになりますが、以下のように段階を踏んでいく必要があります。
事実上の明渡し請求
いきなり裁判を提起しても良いですが、まずは任意に出て行ってもらうべく、内容証明郵便等で、時期を定めて明渡しを求めていくのが良いでしょう。
ただ、契約解除や中途解約、更新拒絶で終了させる場合、その通知の中に同時に明渡しを求める意思表示を盛り込むことが通常なので、その場合は再度明渡しを求める通知をする必要は無いでしょう。
解除通知や解約通知、更新拒絶の通知の中に「本件契約は○○という理由により○年○月○日をもって終了しますので、同日を持って本件建物を明け渡しいただきたくここに通知いたします」というような内容を盛り込むと良いでしょう。
また、第2の4「契約の合意解約」の場合は、通常明渡しの時期、条件、内容を含めて交渉して合意するので、この場合も特に改めて明渡しを求める必要は無いでしょう。
占有移転禁止の仮処分命令の申立て
賃借人が任意に退去しない場合は、仕方ないので裁判で明渡しを求めることになりますが、その前に「占有移転禁止の仮処分」という仮処分を、地方裁判所に申し立てると良いでしょう。
どういうことかというと、賃借人に対して訴訟を提起し、明渡しを命じる判決をとってそれが確定しても、その効力は訴訟の被告にしか及びません。
したがって、賃借人ではない別人が建物を占有するに至った場合、判決の効力が及ばず、強制執行もすることができない場合があります。そこで、「占有移転禁止の仮処分命令の申立て」をするのです。
これは、文字通り「占有の移転を禁止する命令」です。これをしておけば、強制執行の際に別人が占有していたとしても、賃借人に対して判決を取得していれば強制執行が可能となるのです。
訴訟提起
次にいよいよ訴訟提起をしますが、だいたい以下のようなポイントを抑えておくと良いでしょう。
管轄裁判所
まず、どの裁判所に提訴するかですが、不動産もしくは賃借人の所在地管轄の地方裁判所に提訴することが原則となります(どの地域をどの裁判所が管轄しているかは、裁判所のホームページで確認できます。)
ただし賃貸借契約書に「紛争が起きた場合は○○地方裁判所が管轄裁判所となる」という管轄合意を予め結んでいる場合は、その地方裁判所に提訴する事になります。
必要物
場合によりけりですが、だいたい以下のようなものが必要となります。
- 訴状
- 印紙代と郵券代
- 建物の不動産登記簿
- 法人が当事者となっている場合はその法人の登記簿
- 賃貸借契約書
- 契約の終了を示す資料(契約解除通知、中途解約通知、更新拒絶通知等)
- 証拠説明書 正本+副本×被告の数
正本(裁判所提出用)+副本(被告送付用)×被告の数が必要となります。なお訴状には建物の物件目録、建物の図面も添付します。
裁判所に納める手数料や郵券の事ですが、事案によってまた裁判所によって異なります
⑤⑥が証拠資料として提出することになりますので、正本+副本×被告の数の分が必要となります。
訴訟提起後の流れ
- 裁判所から第1回目期日の打診→第1回目期日の決定→期日請書の提出
- 被告(相手方)に対して、裁判所から期日への呼出状を送られる。
- 被告(相手方)から答弁書提出→原告(申立人)にも送付
- 第2回目以降期日
訴訟は、最終的には判決や決定がなされる手続きなので、お互いの主張や立証は書面でやり取りします。
通常、当事者は決められた期日までに、前回期日での審理内容あるいはそれまでに提出された書面を踏まえた上で書面を作り、だいたい1週間前までに提出すします。
訴訟の場合、その書面は期日で「陳述扱い」(その書面に書いてあることを主張したこと)となります。
場所は、正式な法廷の場合もあれば、書記官室に併設されている小さな会議室で行われる場合もあります。期日では、提出された書面を確認し、その書面に書いてある内容について質問や討論が行われたり、または今後の裁判の進め方について協議されたりします。
次回期日も双方の予定を確認して、口頭で決められます。
このようにして期日を重ね、最後は判決かもしくは和解で裁判が終了します。
訴訟の終了と判決の確定
上記のように判決で終わる場合と和解で終わる場合両方があります。
判決で終わる場合、双方が「控訴」することなく控訴期間が過ぎた場合はその時点で判決が「確定」します。
一方、どちらかが控訴した場合は、高等裁判所で訴訟が係属されることになり、そこでさらに期日が開かれて(通常は1回だけ)、地方裁判所と同様、判決もしくは和解で終わることになります。
高等裁判所の判決に対しても最高裁判所に「上告」することができるが、上告で結論が変わることはまず無く、「上告棄却」という決定がなされて終わります。この時点で、判決は終局的に「確定」し、もうこれ以上は不服申し立てをすることは出来ません。
なお和解で終了した場合はその時点で内容が「確定」し、不服申立てはできません(自分で合意したのだから当たり前)。この場合、「和解調書」というお互いに合意した内容をまとめた示談書のようなものが裁判所から発行されます。
強制執行
以上のようにして「確定した判決」もしくは「和解調書」で書かれた内容に違反、つまり建物の明渡しをしないでいると、強制的に建物の明渡しを実現していくことになります。これが「強制執行」です。
管轄裁判所
強制執行も裁判の一種であり、裁判所により行われるので、最初に訴訟提起したところと同じ地方裁判所に申し立てます。
必要物
- 債務名義
- 確定証明書
- 執行文
- 送達証明書
- 印紙代、郵券代
- 予納金
- 建物の図面
強制執行によって実現できる内容を明記した公の書面のことです。判決書、和解調書等のことです。
判決や決定が確定したことを示す書面で、判決が確定した段階の裁判所で発行してくれます。なお和解調書の場合は不要です。
「強制執行が出来ます」という裁判所のお墨付きのようなもので、確定した判決書や和解調書に付与してもらうことが必要となります。これも判決が確定した段階の裁判所や和解が成立した裁判所が発行してくれます。
判決書や和解調書が実際に被告側に送達された事を証明するものです。これは裁判を担当した裁判所に申し込めば発行してくれます。
裁判所により異なりますので、実際に申し立てる裁判所の窓口に確認することが必要となります。
強制執行では、「予納金」という予め裁判所に納める保証金のようなものも必要となります。これも裁判所や事案によってまちまちです。なお強制執行が終了した後、残金があれば返還されます。
手続の流れ
- 強制執行の申し立て
- 執行官との打合せ
- 明渡しの催告
- 明渡しの断行
以上のような必要物でもって強制執行を申したてます。なお強制執行の場合、明渡しを求める人を「債権者」、相手側を「債務者」と言います。
建物明渡しの強制執行を申し立てた場合、裁判所の「執行官」と呼ばれる人達が強制執行手続を主導します。
その執行官が債務者(又はその他の占有者)に対して引渡期限を公示し、断行予定日(いよいよ強制的に明渡しを行う日)を示して任意の明渡しを求めることになります。
それに先立ち、債権者は、執行官との間で、明渡しの催告期日・明渡しの断行日の日程調整、執行補助者(搬出業者・保管業者・解錠業者などの作業員)について打ち合わせます。
執行官が債務者に対して、明渡しの催告をし、断行予定日も告知されます。
断行日において、債権者、執行官、執行補助者等の関係者が現地に赴き、建物内の動産類の搬出を行い、債務者の占有を排除して建物を空き家の状態にして、債権者に引き渡します。
これにより建物明渡しの強制執行手続きが終了します。
まとめ
以上が建物の明渡しの方法です。
ご覧のように、強制執行まで行うとなると、相当の時間や費用、労力がかかりますので、なるべく訴訟に至る前の交渉や、訴訟に至っても和解で終わらせるに越した事はないですが、場合によっては交渉が一切通じず、粛々と裁判手続を進めていった方が良い場合もありますので、どのような方針で明渡しを求めていくかどうか、ここで書かれていることも踏まえながら、詳しくは弁護士等の専門家に相談するのが良いでしょう。
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