これだけは絶対するな!!建築の法令違反に対する処分と罰則
これだけは絶対するな!!建築の法令違反に対する処分と罰則
世間の注目を集めた平成17年の構造計算偽装事件の後、建築士や建築業界の方を見る世の中の目が厳しくなり、建築基準法及び建築士法といった建築関係法令が改正されるにいたりました。
今回は、こうした法令に違反してしまった場合、一体どのような処分や罰則が下されるか、を見ていきたいと思います。
行政処分と罰則
行政処分
まず行政処分があります。これは、建築士の監督官庁である国土交通省による処分のことです。いわば「お役所による処分」です。
処分の種類としては以下の4種類があります。
- 免許取消し
- 業務停止
- 戒告
- 文書注意
こうした処分を受けると、建築士の氏名、登録番号、処分内容、処分理由等が広告されます(建築士法第10条第5項、同報施行規則第6条の3)。
免許取消しや業務停止はもちろんのこと、戒告処分であっても、自分の違反行為や処分が普通に世間一般に告知されるので、その後の業務や営業においてかなりの痛手になります。
ただし、処分に不服があれば行政不服審査法という法律に基づいて審査請求(不服申立てのこと)を行うことができます。
罰則
行政処分とは別に、「罰則」つまり刑事罰もあります。建築法令違反の中でも悪質な類型のものは、行政処分のほか、刑事罰も下される場合があるのです。
種類としては以下の通りです。
- 懲役刑
- 罰金刑
つまり、例えば傷害罪や窃盗罪といった犯罪に対して「懲役○年」とか「罰金○万円」という刑罰が下されるように、建築法令違反が「犯罪行為」として処罰されることもあるのです。
また、罰金刑であっても、後述のように1億円の罰金を科せられるものもあり、これもかなり重い処分と言えます。
なお、これは、お役所による処分ではありませんので、上記の犯罪のように、警察や検察による捜査の後、起訴されれば刑事裁判で審理され、判断されることになります。
行政処分の基準
ランクの表
行政処分については、どういった違反行為があると、どういった処分が下されるのでしょうか。
それについては、以下の表をご覧ください。
表1 ランク表 懲戒根拠 懲戒事由 ランク 建築関係法令違反 建築士法違反 1.業務停止処分違反 16 2.建築士報告、検査業務違反 4 3.指定登録機関、指定試験機関または指定し墓所登録機関の秘密保持義務違反(指定登録機関などの役職員などとして) 4 4.登録講習機関の地位の承継の届出義務違反 4 5.試験委員の不正行為 4 6-1.違反設計、違反適合確認(建築物の倒壊・破損、人の生命・身体への危害の発生につながる恐れのある技術基準規定違反の設計・適合確認等) 9~15 6-2.違反設計、違反適合確認(上記以外の違反設計・違反適合確認) 6 7.工事管理不履行・違反適合確認 6 8.無断設計変更 4 9.建築士免許証などの不提示 4 10.設計図書の記名・押印不履行 4 11.安全性確認証明書交付義務違反 6 12.工事管理報告書の未提出、不十分記載など 4 13.建築設備士の意見明示義務違反 4 14.名義借り 6 15.名義貸し 6 16.構造設計図書・設備設計図書への表示義務違反 4 17.構造設計一級建築士・設備設計一級建築士への確認義務違反 4 18.構造設計図書・設備設計図書の確認記載・記名・押印不履行 4 19.構造設計一級建築士証・設備設計一級建築士証の不提示 4 20.違反行為の指示など 6 21.信用失墜行為 4 22-1.①定期講習受講義務違反 1 22-2.②①による処分などを受けても、なお受講しない場合 2 22-3.③②による処分などを受けても、なお受講しないなど悪質性が高い場合 5 23.契約締結時の署名の交付義務違反 4 24.設計などの業務に関する報告書未提出 4 25.無登録義務 4 26.虚偽・不正事務所登録 4 27.事務所変更届懈怠・虚偽報告 4 28.管理建築士不設置 4 29.管理建築士事務所管理不履行 4 30.再委託の制限違反 4 31.事務所の帳簿不作成、不保存 4 32.事務所標識非掲示 4 33.業務実績などの書類の備置き、閲覧義務違反、虚偽記入 4 34.重要事項説明義務違反 4 35.重要事項説明時の建築士免許証などの不提示 4 36.業務委託などの書面の交付義務違反 4 37.事務所閉鎖処分違反 16 38.事務所報告、検査義務違反 4 39.建築士審査会委員の不正行為 4 建築関係法令違反 建築基準法違反 40.設計、構造設計、設備設計、工事管理規定違反 6 41.無確認工事など 6 42.違反工事 6 43.工事完了検査申請など懈怠 4 44.是正命令など違反 6 45.確認表示非掲示 4 上記以外の建築関係法令違反 46.建築確認対象法令違反 3~6 不誠実行為 47.虚偽の確認済証などの作成または同行使 6 48.無確認着工等容認 4 49.虚偽の確認申請など 6 50.工事監理者欄など虚偽記入 6 51.監理建築士専任違反 4 52.監理建築士への名義貸し 6 53.重要事項説明の欠落 4 54.その他の不誠実行為 1~6
表2 個別事情による加減表 項目 内容 加重・軽減 行為者の意識 重大な悪意あるいは害意に基づく行為 +3ランク 行為を行うにつきやむを得ない事情がある場合 ▲1~▲3ランク 行為の態様 違反行為等の内容が軽微であり、情状をくむべき場合 ▲1~▲3ランク 暴力的行為又は詐欺的行為 +3ランク 法違反等の状態が長期にわたる場合 +3ランク 常習的に行っている場合 +3ランク 是正等の対応 速やかに法違反等の状態の解消を自主的に行った場合 ▲1~▲3ランク 処分の対象となる事由につき自主的に申し出てきた場合 ▲1ランク 社会的影響 刑事訴追されるなど社会的影響が大きい場合 +3ランク そ の 他 上記以外の特に考慮すべき事情がある場合 適宜加減
表3 処分区分表 処分などのランク 処分などの内容 処分などのランク 処分などの内容 1 文書注意 9 業務停止6月 2 戒告 10 業務停止7月 3 業務停止1月未満 11 業務停止8月 4 業務停止1月 12 業務停止9月 5 業務停止2月 13 業務停止10月 6 業務停止3月 14 業務停止11月 7 業務停止4月 15 業務停止12月 8 業務停止5月 16以上 免許取り消し
表4 過去に処分等を受けている場合の取扱表
(カッコの中は過去の処分等の懲戒事由が今回の懲戒事由と同じ場合)過去の処分等 文書注意 戒告 業務停止 免許取り消し ランク1 ランク2 ランク3~15 ランク16以上 今回相当処分等 ランク1 +1ランク(+2ランク) ランク2 +1ランク(+2ランク) +3ランク(+4ランク) ランク3~15 +1ランク(+2ランク) +3ランク(+4ランク) ランク16 免許取り消し
一般的基準
例えば表1の「懲戒事由」の1に書かれている「業務停止処分違反」、つまり業務停止処分が下っているにもかかわらずそれに違反して業務を行ったような場合などは、ランクが「16」となり、表3にあるように一発で「免許取消し」という重い処分が下されます。
逆に懲戒事由の20に書かれている「定期講習受講義務違反」などはランクが「2」となり、戒告で済みます。
ランクの加算、軽減
また、表2にあるように、その違反行為が故意によるものか過失によるものか、常習性があるかないか、違反の期間が長いか短いか、違反状態を是正したかどうか、等といった個別事情によってランクが上がったり下がったりします。
さらに、表4にあるように、過去に処分を受けている場合なども、その過去の処分のランクと今回の処分のランクによって、ランクが一定程度アップします。
まとめ
以上の通り、行政処分はかなり細かく基準が定められていますが、逆に言えば小さな違反行為でもきっちり処分がされることを意味します。
しかも上記の通り氏名や事務所名まで公表されるので、決して軽視できることではありませんので、十分気をつけることが必要です。
刑事罰
刑事罰については、主だったものが以下のように挙げられます。
3年以下の懲役または300万円以下の罰金(法人の場合は1億円以下の罰金)
- 措置命令違反
- 緊急施工停止命令違反
- 構造耐力や大規模建築物の主要構造部、防火壁等の基準に適合しない設計を行った場合 など
1年以下の懲役または100万円以下の罰金
- 建築確認、完了検査、中間検査に関する違反(※法人の場合は1年以下の懲役または1億円以下の罰金)
- 建築士・建築事務所の名義貸し
- 建築士による構造安全性の虚偽証明 など
以上の通り、法人の場合は最高で1億円もの罰金が科せられることがあり、非常に重い刑罰が予定されていますので、もしこのような刑罰が下された場合は、もはやその後の業務はきわめて難しくなるでしょう。
まとめ
いかがでしたか。
建築士の責任というと、顧客との契約をめぐる責任、つまり民事上の賠償責任等がクローズアップされがちですが、こうした行政処分や刑事罰も非常に重く、絶対に避けなければならない事態と言えます。
冒頭の通り、建築士や建築業界に対する社会の目はますます厳しくなっています。建築基準法や建築士法といった、建築業の基本的な法令にはくれぐれも違反しないように普段からよく注意することが必要と言えるでしょう。
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