契約書で見落としがちな重大ポイント6
連帯保証人と民法改正について
契約書で見落としがちな重大ポイント6
連帯保証人と民法改正について
民法改正に伴って、連帯保証人に関して変更があったことはご存じでしょうか?
連帯保証人とは、どういったものか、そしてどのようなことができるのかを確認しておかないと、思わぬトラブルに巻き込まれることがあります。
この機会に、民法改正後の連帯保証人について再確認していきましょう。
目次
1.はじめに
企業で扱う契約書においては、自社と取引先の2者間で取り交わすことが多いですが、中には3者間で取り交わす契約書もあります。
その中で最も多くみられるものの一つが、「連帯保証人」が加わって取り交わす契約書です。
例えばオフィスや住居の賃貸借契約などで、借主の債務を保証するための連帯保証人を付けることを求められ、誰かに連帯保証人になるよう頼み、契約をした経験のある方もいらっしゃると思います。
しかし、この連帯保証人というのは、言葉としては割と馴染みにあるものですが、その正確な内容や法律上の規定が意外と知られていないことも多く、一歩間違うと、大きなトラブルになる危険性をはらんでいます。
この機会に、連帯保証人の基礎的な知識と2020年の民法改正にまつわる知識を押さえてしまいましょう。
2.そもそも「連帯保証人」とは
2-1.保証人の2つの類型
「連帯保証人」というのは、その名の通り、主たる債務者と連帯して債務を負担する約束をした人のことで、保証人の類型の一つです。
実は、「保証人」というのは、2つの類型に分けられます。
・単純保証人
・連帯保証人
どちらも「債務者の債務を保証する」、つまり「何かあったときは債務者の代わりに債務を肩代わりして弁済する」という役割は共通していますが、以下のような違いがあります。
2-2.「単純保証人」の場合
例えば債務者が弁済を滞らせ、債権者が保証人に返済を迫ってきたときに、単純保証人の場合は、「まずは債務者に先に言ってくれ」と主張し、債務の弁済を拒むことができる権利があります。
これを「催告の抗弁権」と言います。
さらに、「債権者には返済能力(財産)があるから、そちらを差し押さえてくれ」と主張でき、債務者に返済能力(財産)がある場合には、やはり弁済を拒むことができます。
これを「検索の抗弁権」です。
このように、単純保証人の場合は、一定の権利が保障されています。
2-3.「連帯保証人」の場合
他方で、「連帯保証人」には「催告の抗弁権」も「検索の抗弁権」もありません。
連帯保証人は、債務者と連帯して責任を負うので、債権者に対して債務者と同等の責任を負いますので、「まず債務者に言ってくれ」とか「債務者の財産を差し押さえてくれ」という言い分は通用しないのです。
このように連帯保証人というのは、非常に重い責任を負っているのですが、債権者から見れば連帯保証人の方が有利なので、実務上はほとんどの場合、連帯保証人です。例えば不動産の賃貸借では、貸主は借主に連帯保証人をつけることを求めることを条件に物件を貸していることが多いのです。
3.契約書における連帯保証人のポイント
では、実際に契約書で連帯保証の内容を定める場合のポイント見ていきましょう。
3-1.契約当事者として記載する
まず、契約書で連帯保証人を入れる場合、当然ですが、債権者と債務者だけで勝手に第三者を連帯保証人として入れたり、勝手に連帯保証の内容を決めたりすることはできません。その連帯保証人自身が自分の意思で連帯保証とその内容に合意することが必要です。
したがって、連帯保証人自身が、契約当事者として契約書に記載され、署名押印することが必要です。
例えば、不動産の賃貸契約書の場合、下記に記載した通り、末尾に署名押印欄を設け、連帯保証人の署名押印も入れます。
甲(貸主)
東京都 ○○区 ○○ ○○―○○
株式会社○○○○
代表取締役 ○○○○ ㊞
乙(借主)
東京都 ○○区 ○○ ○○―○○
株式会社○○○○
代表取締役 ○○○○ ㊞
丙(連帯保証人)
東京都 ○○区 ○○ ○○―○○
○○○○ ㊞
3-2.連帯保証人が個人の場合の3つのルールに注意
2020年4月1日より改正された民法では、連帯保証人が法人である場合と個人である場合で扱いが異なってきます。
連帯保証人が個人である場合、以下のように重要なルールが3つ存在します。
3-2-1.事業のために負担した債務を連帯保証する場合の、債務者から連帯保証人への情報提供
債務者が債権者に対し事業のために負担した債務について個人が連帯保証する場合、債務者は連帯保証人に対し、契約時に以下の情報を提供する必要があります(民法第465条の10第1項)。
・主債務者の財産及び収支の状況
・主債務以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状況
・主債務の担保として他に提供し、又は提供しようするものがあるときは、その旨及びその内容に関する情報
したがって、契約書には以下のような条文を記載した方が良いでしょう。
第○条
本契約の締結に際し、主債務者は連帯保証人に対し、民法第465条の10第1項に定める事項(主債務者の財産及び収支の状況、主債務以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状況、主債務の担保として他に提供し、又は提供しようするものがあるときは、その旨及びその内容)につき情報提供を行ったことを、及び連帯保証人は債権者及び主債務者に対して、当該事項の情報提供を受けたことを確認する。
3-2-2.事業のために負担した債務が、貸金債務である場合、公正証書が必要
この場合、連帯保証契約を締結する1ヶ月前までに、公証役場で公証人が連帯保証人に対して意思確認を行い、当該意思確認を行ったことを証する公正証書を作成する必要があります(民法第465条の6第1項)。
この公正証書が作成されない場合、連帯保証契約は無効とされます。
ただし、個人であっても以下のような属性の個人の場合は公正証書が不要です(民法第465条9)。
一 主たる債務者が法人である場合のその理事、取締役、執行役又はこれらに準ずる者
二 主たる債務者が法人である場合の次に掲げる者
イ 主たる債務者の総株主の議決権(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株式についての議決権を除く。以下この号において同じ。)の過半数を有する者
ロ 主たる債務者の総株主の議決権の過半数を他の株式会社が有する場合における当該他の株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者
ハ 主たる債務者の総株主の議決権の過半数を他の株式会社及び当該他の株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者が有する場合における当該他の株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者
二 株式会社以外の法人が主たる債務者である場合における イ、ロ又はハに掲げる者に準ずる者
三 主たる債務者(法人であるものを除く。以下この号において同じ。)と共同して事業を行う者又は主たる債務者が行う事業に現に従事している主たる債務者の配偶者
3-2-3.期限の利益喪失時の通知義務
期限の利益とは、債務者(お金を借りた人)が、期限が到来するまで返済をしなくてもよいという権利(利益)のことです。例えば100万円の借入をした債務者が、債権者との間で「1か月に10万円ずつ返済する」という合意をする場合等のことです。
そして「期限の利益喪失」とは、当事者が予め定めた一定の事由の発生を条件として、こうした利益が失われることです。例えば「1回でも遅延した場合、残額と遅延損害金を全て一括返済する」というものです。
個人が連帯保証をする場合で、こうした期限の利益喪失が生じた場合、債権者は連帯保証人に対し、期限の利益喪失を知った日から2ヶ月以内に通知する必要があります(民法第458条の3第1項)。
この通知義務を怠った場合、期限の利益喪失から通知を行うまでに生じた遅延損害金を連帯保証人に請求できないことになります(民法第458条の3第2項)。
3-3.連帯保証人が根保証をする場合、極度額の設定を行う
「根保証」とは、将来発生する不特定の債務を保証することを意味します。既に具体的に発生している債務(つまり金額が確定している)を保証するのではなく、将来発生する債務を保証するというものです。
こうした根保証の場合、保証人が際限なく莫大な債務を負って不利益を受けることを防止するため、改正民法では、極度額(負担額の上限のこと)を必ず定める必要があるとされています(民法第465条の2)。
例えば以下のような条文です。
第○条
連帯保証人は債権者に対し、主債務者が負担する以下の債務について、主債務者と連帯して保証する。
【主債務の内容】○○
【極度額】○○
【元本確定期日】○○
【元本確定事由】○○
こうした極度額の定めのない連帯保証契約は無効になります。
3-4.履行状況の問合せに対する回答義務
改正民法においては、連帯保証契約締結後、連帯保証人が債権者に対して、債務者の債務支払い状況につき問い合わせを行った場合、回答義務があることが定められています(民法第458条の2)。
そして、この回答義務を怠った場合、連帯保証人は債権者に対して損害賠償請求ができること、及び場合によっては連帯保証契約を解除することが可能と解釈されています。
したがって、契約書では以下のような条文を記載した方が良いでしょう。
第○条
債権者は、連帯保証人より債務の履行状況に関する問合せがあった場合、当該問合せ日より14日以内に、連帯保証人に対して次の事項について情報を提供する。
1.主債務の元本債務の残額の有無及びその額
2.前号の定める残額うち、弁済期が到来している債務の有無及びその額
4.おわりに
いかがでしたでしょうか。
連帯保証人は、多くの契約書で見られるものですが、連帯保証人は非常に重い責任を負う反面、いろいろと厳しいルールや細かいルールも存在し、契約書の記載では特に慎重を期す必要があります。
改めて、現在交わしている契約書やこれから契約書に連帯保証人の規定がある場合、それが適正なものかどうかを確認するために、弁護士に相談したほうが良いでしょう。
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