契約書で見落としがちな重大ポイント2
業務委託契約の費用や報酬の定め方
契約書で見落としがちな重大ポイント2
業務委託契約の費用や報酬の定め方
業務委託契約書とは企業や個人事業、フリーランスで働く方々がお仕事をする際に交わす契約書の1つです。業務委託契約書には、請負契約と委任契約のタイプがあります。それぞれのタイプで確認しておくべき、費用や報酬の定め方をご紹介いたします。
目次
はじめに
会社の業務にあたっては、日々様々な契約書が取り交わされております。
中でも、業務委託契約書は、会社が取り交す契約書の中で最もメジャーなものの一つであり、また、トラブルが多い契約類型の一つでもあります。
業務委託契約を結ぶときに交わされる契約書の内容は、どの条文も重要なものばかりで、一つ一つ丁寧に検討しなければなりませんが、特に重要で、かつ見落としがちな部分として、「業務委託契約の費用や報酬の定め」があります。
「いやいや、費用や報酬はお金のことなんだから、十分気を付けているよ」と言う方もいらっしゃるかもしれませんが、意外にも費用や報酬についての定め方や記載方法が不十分だったり不適切だったりしてトラブルを招く事例は非常に多いのです。
報酬や費用について過去にトラブルを生じさせてしまった方も、そうでない方も、この機会に適切な定め方のポイントを押さえ、不測の損害が生じないようにしましょう。
そもそも業務委託契約とは
業務委託契約とは
最初に「そもそも業務委託契約とは何か」という話から始めたいと思います。「業務委託契約」とは、その名の通り「業務」を「委託」する「契約」、つまり何らかの作業なり仕事なりに対してお金を払って他人にやってもらう契約のことですが、実は「業務委託」というのは法律用語ではなく、また「業務委託契約」という言葉も法律(民法)にはありません。
何らかの作業なり仕事なりに対してお金を払って他人にやってもらう契約というのは、法律上、大きく分けて、「請負契約」と「委任契約」という2つの契約類型として規定されています。
請負契約とは
まず「請負契約」というのは、「請負人が仕事を完成することを約し、注文者がこれに対して報酬を支払うことを内容」とする契約です。
例えば会社の業務上のシステム開発をエンジニア等に委託する契約や、建物の建築を建築会社に依頼する契約がこれに当たります。
委任契約とは
一方、「委任契約」というのは、仕事の完成ではなく、「一定の事務処理行為を行うことを約する」契約です。
例えば、コンサルタントにコンサルティング業務を依頼する契約や、弁護士に事件の処理を依頼する契約がこれに当たります。
しかし、この委任契約は、2020年4月1日の民法改正により、成果完成型と履行割合型の類型があることが明文化されました。
- 成果完成型
- 履行割合型
成果完成型とは、事務処理行為によって一定の成果を上げたことに対して費用や報酬が発生する契約のことです。例えばコンサルティング契約で言うと、単に依頼会社にアドバイスしたり助言・指導したりするだけではなく、実際に依頼会社の売上や業績がアップしたことに対して報酬が発生するような契約です。契約のタイプとしては請負契約に近いと言えます。
他方で、履行割合型とは、成果ではなく、成果に関係なく日額や月額といった定額で費用が発生するような契約や、タイムチャージ制つまり時間給による契約等、「どのくらい働いたか」という業務量で金額が決まる契約です。
業務委託契約のタイプの整理
まとめると、業務委託契約は、法律上は以下のようなタイプに整理できます。
- 請負契約
- 成果完成型の委任契約
- 履行割合型の委任契約
費用や報酬に関する法律上の規定
上記のように、業務委託契約は、法律上、1.請負契約、2.成果完成型の委任契約、3.履行割合型の委任契約の3つのタイプに分かれますが、当然、タイプごとに費用や報酬に関する法律上の規定は異なってきます。
請負契約
まず請負契約ですが、これは上記の通り「仕事を完成させること」が目的の契約ですから、まさに「仕事を完成させること」が報酬の発生条件となります。
成果完成型の委任契約
また、成果完成型の委任契約についても、請負契約と同じように、一定の成果が生じたことに応じて報酬が支払われます。
先に例に挙げた、建築の請負契約や、会社の業績アップに連動して報酬が払われるコンサルティング契約の場合、建物の完成という「仕事の完成」や、会社の業績アップという「成果」が生じないと報酬が発生しません。
履行割合型の委任契約
他方で履行割合型の委任契約は、これは上記の通り「どのくらい働いたか」という業務量で金額が決まる契約ですので、約束した委任事務を履行してさえいればその分の報酬が発生します。例えば、会社同士の契約ではあまりありませんが、音楽やスポーツの指導を依頼する契約ですね。これはたいてい月謝制や日額、時給制といった「業務の分量に応じた」報酬となっていて、別に大会やコンテスト等で良い成績を残すことで報酬を得られるような契約にはなっていませんね(もちろん、中にはそうした契約もあるでしょうが)。
契約が途中で終了した場合
なお、ややこしい問題として、「契約が途中で終了した場合」に契約が途中で終了してしまった場合の費用や報酬はどうなるのか、という問題があります。
これは法律上非常に難しいテーマで、人によって様々な見解があるのですが、ざっくりと下記で説明いたします。
- 委託者の落ち度や責任で契約が途中で終了した場合は、報酬額全額を請求できる。ただし、支出を免れたもの(その後の人件費や材料費等)があればそれは控除する。
- そうでない場合は、履行した部分が、委託者にとって利益となる場合、その分に応じた報酬を請求できる。
例えば、とあるシステム開発を委託する請負契約や成果完成型の委任契約の場合で、システムが未完成のうちに契約が終了してしまった場合、それが委託者の一方的な都合で解約してしまったような場合は、受託者は、報酬額全額からその後にかかったであろう人件費や設備費等を除いた額を「契約が完了していれば得るはずだった利益」として請求できます。他方で、受託者の責任や落ち度による途中終了(※受託者の債務不履行による解除)や、誰のせいでもない原因による途中終了の場合は、開発途中のシステムをそのまま利用して開発続行可能という場合には、その部分に応じた報酬額を請求できます。
また、履行割合型の契約でも、例えば月額で報酬が決められていた契約にもかかわらず月の途中で途中終了してしまった場合、それが委託者側の原因による場合はその月の月額全額を、そうでない場合は履行した部分の割合に応じた額を請求できる、という点は同様です。
業務委託契約書では、どのようなタイプの契約か、途中で終了した場合の費用や報酬がどうなるのかをはっきりさせる
どのタイプの契約なのかを明確にする
以上のように、請負契約か、成果完成型の委任契約か、それとも履行割合型の委任契約か、によって費用や報酬の発生条件は異なってきます。ということは、業務委託契約書では、「どのタイプの契約なのか」ということをはっきりさせておく、ということが大事です。
一定の仕事の完成や成果に応じて費用や報酬を支払う契約なのであれば、そうした内容をきちんと定めるべきですし、逆に成果に関係なく、業務の分量で金額が決まるのであれば、それもきちんと定めるべきです。
また、「途中で終了した場合の費用や報酬はどうするのか」という点もはっきりと定めておくべきです。
トラブルの事例
「何を当たり前のことを」と思われるかもしれませんが、こうした部分が不十分なせいで、「適切な報酬を請求できない」あるいは「予想外の費用を請求された」というトラブルが非常に多いのです。
一つ事例をあげると、例えば建物の設計契約で、
「設計図書(※完成した建物図面一式のこと)を引き渡した後に、報酬100万円を支払う」
という定めのある業務委託契約書を想定してください。
受託者である設計士は、委託者のために昼夜を問わず働いて図面を作り続けていましたが、依頼者はあれこれうるさく注文を付けたり、意見を変えたりして、その度に図面を作り直す羽目になっていましたが、建築予定の土地に有毒物質が発見され、建物が建築できなくなってしまい、結果設計自体も不可能となり、当然その設計契約も、設計図書の完成前に途中で終了してしまいました。
設計士さんは、「これだけ働いたんだから報酬の100万円くらいは払って欲しい」と言いましたが、委託者は「設計図書が完成していないのだから払えるわけない」「途中で終了したのも私のせいではない」と全く応じません。
トラブルの結果
さて、こうした事例において、残念ながら設計士さんは報酬を請求することは難しい状況と言わざるを得ません。なぜなら上記の通り契約書では「設計図書を引き渡した後に報酬100万円を支払う」という内容になっている以上、法律上は「請負契約」または「成果報酬型の委任契約」と見なされ、設計図書の完成という「仕事の完成」ないし「成果」が無い以上、報酬を請求できる余地が無いからです。しかも契約が途中で終了した原因も、建築予定の土地に有毒物質が発見されたからという、少なくとも委託者のせいという訳ではない上に、建築予定の土地自体がダメになって設計自体が不可能になった以上、作成途中の図面も何の役にも立たず、報酬全額を請求できる理由も無いからです。
トラブルの初期対応
こうした事態を防ぐためには、例えば契約書の記載を、
「本契約の報酬は、日額〇万円を、業務を行った日数に乗じた金額とする」
という、履行割合型の委任契約となるような定め方にするか、もしくは
「本契約が設計図書の引渡し前に途中で終了した場合、それが受託者の責に帰すべき事情によるものではない場合は、報酬額全額を支払うものとする」
という具合に、設計士側の責任でない場合には全額を支払う旨を定めおくべきだったと言えます。
そうすれば、上記の設計士さんも、苦労に見合う報酬額を請求できたと思われます。
おわりに
以上のように、業務委託契約書における費用や報酬の定め方は、一歩間違えると大きな損害に結びついてしまう、非常に危険なポイントでもあります。
業務委託契約に限りませんが、会社が行う契約は、一定の経済的利益を得ることを目的としています。にもかかわらず、大事な費用や報酬の定め方が不十分ないし不適切であったばかりに、大きな損害を被ったりすれば本末転倒です。
今一度、契約中の契約書あるいはこれから締結予定の契約書を見直し、費用や報酬の定め方が適切かどうか確かめることが必要です。そのためには、法律の知識が重要となってきますので、できれば弁護士等の専門家に相談することをお勧めします。
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