仲介業者の責任の本質!告知義務違反にあたるかどうかが問われた事案を中心に
仲介業者の責任の本質!告知義務違反にあたるかどうかが問われた事案を中心に
自分が仲介して売却した中古マンションで、かつて殺人事件があった。購入後に知った購入者から、解除して欲しいと言われてしまった・・・。こんなことってありませんか?
ここまでのショッキングな事態ではなくても、新築一戸建てを購入したら、目の前に巨大なマンションが建築されるという建築計画が張りだされてしまった。こんな計画があることを知っていたら買わなかったとクレームをつけられている。こう言ったレベルだとかなりありますよね。
仲介業者というのは、物件について知り得た情報をどこまで告げなくては、仲介業者として責任をとられるのでしょうか。
また、そもそも、事情を知らなかったら告げようがないのですが、そういう「曰く因縁」や、物件を囲む情報を調査しなかった方が悪いと言われてしまうのでしょうか。仲介業者の責任というのはそもそも、どういった責任で、いったいどこまで果たせば責任を果たしたといわれるのでしょうか。
こんな疑問に当たることは良くあります。ここでは、仲介業者の責任の法的根拠とその性質、さらには具体的な射程範囲を考えてみたいと思います。
仲介業者とは法的にはどういう職種?
巷では「仲介」と簡単に呼ばれていますが、法的には宅地建物取引業法に基づいた、宅地建物取引業者を仲介業者といいます。不動産の取引を仲介することを業としている者のことです。
その仕事の内容は、不動産取引の専門家として実に多岐に渡ります。
- 不動産の契約当事者を確定すること(営業を含む)
- 契約対象となっている取引物件に対する資料の収集、調査、価格の査定
- 当事者相互の契約締結のための、取引条件の交渉、調整、確定
- 契約締結業務として、契約書の作成、調印、交付
- 契約内容の履行確保に向けてのあらゆる手続き業務
などなど、ざっくり分類して主なものを書き出しただけでも上記のとおりです。不動産を巡る業務や法律は、扱う品物が大きく巨額であるだけに、トラブルが起きると取り返しのつかない事態が発生します。また、契約当事者のみならず、近隣にも影響を与えることから、その被害は甚大なものとなります。
そこで、優れた専門的な能力を有する不動産取引の専門家を宅地建物取引業者として免許制とし、不動産取引が円滑に安全にかつ適正に行われ、不動産の流通、ひいては社会経済の発展に資することが目指されているのです(宅建業法1条の趣旨)。
仲介業者が法的責任を問われる根拠
上記の通り、仲介業者は高い専門知識と経験を生かし、不動産取引のエキスパートとして活躍される事が期待されています。当然、仲介手数料という高額な報酬を手にします。その裏返しとして、契約者に対して、善良な管理者としての注意義務を負う者とされています。報酬の裏返しとしての責任ですから、報償責任と呼ばれるものです。仕事の対価としてもらうお金に見合った責任がありますよ、ということです。
具体的にはこの善良な管理者としての注意義務は、「調査義務」、「説明義務」として語られる事になります。
まず、調査義務として、契約当事者、契約の対象物、それらに付随する事情を精査し、必要に応じて現地に出向くなどの方法も交えて正確に調査して把握することが求められます。
また、上記の専門能力を持って集めた情報はすべて依頼人(売主であることも買い主であることもあります)に告げる義務があります。これを告知義務と言います。「知りて告げざる」ことは違法とされるのです。
調査・説明義務の範囲
では、調査義務や、「知りて告げざる」と言われる告知義務は、どこまでをいうのでしょうか。これと言った明快な基準があるのではないのですが、一般的には単に基本法令のみならず、その物件の利用方法にまつわる法的な規制、さらには、物件の周辺事情(環境や、心理的なものも含む)を併せて多岐にわたるとされています。
判例を眺めても、どこまでが責任のあるなしの境界線となるかの明確な基準がある、というよりは、ケースバイケースと言う感じが否めません。
私は、顧問会社の担当者などから、普段お尋ねがあると、その限界線として、「『自分ならそれを知っていたら買わなかったな』と思う事情は告げておかないとフェアではないよね」とお話ししています。例えば、凄惨な殺人事件があって、その現場となった物件であるということは、知っていれば絶対買わないと皆言います。だったら、告げるべきです。何年か前に物件内で首つり自殺した人がいた、という話になってくると、気にする人と気にしない人と別れてくるようです。ただ、反応が別れてくるわけですから、一般的には告げるべきであるという感覚だと思います。これに関連して裁判事例では、賃貸事案ですが、マンションを借りたところ、階下の部屋で、半年前に自然死した人がいた、という事案では、心理的な事を加味しても、「嫌悪すべき歴史的背景」とまでは言えず、告知義務はないとされました。微妙ですが、ここら辺が限界事例ということになりますね。
実際の事案から
当事務所で何年か前に実際に扱った事案で下記のようなものがありました。
A社は、Bさんに一戸建て物件の販売の仲介をし、Bさんは物件を気に入り、購入を決意、無事に決済もすみました。それから1年後、Bさんから、A社に対し、「自宅の前にマンションが建つことになった、それ自体はいいのだが、建築計画概要を見たら、マンションの入り口が自分の自宅と向かいあってしまう。これでは私生活の平穏が乱される、こんな物件はいらない」というクレームが来ました。
A社では、マンションの建築計画は知っており、もちろん、Bさんにその事実を告げていました。しかし、マンションの具体的な敷地配置図や建築建物の概要までは知らず、入り口がどちらかなどの情報は得ていませんでした。
Bさんは、「時期から考えて、自分が自宅を買ったときには建築概要はできていたはずで、敷地におけるマンションの配置は決まっていたはずだ」としてA社の調査義務違反を訴えてきました。
この事件、調停で、双方話し合いがもたれましたが、事案を指導した調停委員会は、「マンションの大きさや世帯数などはA社は業者に問い合わせて、把握してそれを伝えている。その意味で、告知義務違反はない」とした上で、さらに、マンションの入り口がどこになるかについては、「それがどちらを向いているかによって、B自宅の利用が不可能になるような甚大な差が出るとは通常思えず、マンションの建築計画がいつ外部に発表されていたかどうかを問わず、ここまでの調査義務はない」との意見を述べてくれました。
このため、Bさんは調停を取下げ、その後訴訟が起こされる事も無く、事件は終わりました。
一つの指針となる事件でしたが、やはりケースバイケースであることはたしかなので、まずはユーザの利用目的などを正確に把握することが大切ですね。
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