契約書で見落としがちな重大ポイント8
契約書は公正証書にすべき? 今さら聞けない公正証書の基本

契約書で見落としがちな重大ポイント8
契約書は公正証書にすべき? 今さら聞けない公正証書の基本

契約書で見落としがちな重大ポイント8 契約書は公正証書にすべき? 今さら聞けない公正証書の基本
  • 「契約書は公正証書にした方が良いか?」
  • 「公正証書にするメリットは?」
  • 「そもそも公正証書って何だ?」

契約書などの文書を作成する際、このような疑問を持たれた経験がある方も多いと思います。

公正証書は、割と馴染みある言葉ですが、その正確な内容や制度については意外と知られていません。

しかし、公正証書は、使いこなせば極めて有効な法律上の手段となります。この機会に公正証書の基本的な知識を押さえてしまいましょう。

1.公正証書とは

1-1.公正証書と公証人

法務省の説明によると、公正証書とは、以下のよう記されています。

    「私人(個人又は会社その他の法人)からの嘱託により,公証人がその権限に基づいて作成する文書」

私人とは、分かりやすく言えば「民間人」「民間の法人」のことです。

そして公証人とは、そうした私人の法律的な紛争を未然に防ぎ,法律関係の明確化や安定化のために、こうした公正証書の作成を通じて、一定の事項を証明する役割を担っている人達のことです。公証人法という法律に基づき、法務大臣が任命する公務員とされています。

このように、公証人が、一定の事項を公的に証明するために作成した文書が「公正証書」となります。

1-2.公正証書の種類

具体的にどんな公正証書があるのか、というと、上記の通り「一定の事項を公的に証明する」文書ですから、特に種類が限定されているわけではなく、非常に多岐にわたります。

よく見られるものとしては、以下のようなものがあります。

    ・契約書

    ・遺言書(※いわゆる公正証書遺言)

    ・遺産分割協議書

    ・離婚協議書

もちろんこれら以外にも、さまざまな公正証書があります。

2.契約書を公正証書にすべきか

2-1.法律上、原則として公正証書を作成する必要はない

原則として、契約書は公正証書の形で作成する必要はありません。世の中にある契約書はほとんどが公正証書にはなっていません。そもそも契約書というのは、一部の例外を除いては契約の成立に絶対必要というわけではなく、あくまでお互いに合意した内容の証明のために作成されるものですから、どんな形式でも良いのです。

2-2.例外的に法律上、公正証書の作成が義務付けられているもの

以下は、法律上で、公正証書の作成が必要とされています。

    ・事業用定期借地権の設定契約の契約書

    ・任意後見契約の契約書

「事業用定期借地権の設定契約」とは、事業用定期借地権、つまり通常の借地権ではなく、専ら事業のために使用する建物を所有する目的で設定される借地権を設定する契約です。通常の借地契約と違って、契約の更新や建物の買取りが認められず、契約期間が満了すると確実に土地を明け渡さなければならないという、借主にとっては厳しい内容になるため、当事者が内容を十分認識して契約する必要があることから、必ず公正証書によることが法律で定められています。

次に「任意後見契約」とは、本人が後見事務(判断能力を失った人の代わりに様々な行為をすること)の全般又は一部の代理権を他者に与える契約のことです。これも、当事者が内容をよく認識した上で締結する必要があることから、公正証書にすることが法律で定められています。

3.契約書を公正証書で作成するメリット

上記2で記載した通りに一部の例外を除いて契約書を公正証書にする法律上の義務はありません。では契約書を公正証書にするメリットや必要性はどこにあるのかをみていきます。

3-1.後になって「偽造だ」「偽物だ」と言われて争われる心配がない

後述の通り、公正証書は、当事者本人かもしくは当事者本人から(実印や印鑑証明書による委任状で)委任を受けた者が直接公証役場に行って作成する文書であるため、少なくとも当事者の意思に基づいて作成された文書であることが保証されます。

したがって、後になってから「その契約書は偽造だ」などと言われる心配がなくなります。

3-2.当事者に対してきちんと契約を守らせる心理的効果が期待できる

公正証書を作成する際には、当事者が公証人の面前で具体的な契約内容を確認し、また本人確認資料も公証人に提示するという手続きがおこなわれます。

こうしたことで、当事者に契約を遵守させる心理的な効果をもたらすことが期待できます。

3-3.原本が公証役場で保管される

公正証書の原本は20年間、公証役場で保管されます。

したがって、仮に公正証書で作成した契約書が紛失したり汚損したりした場合も、公証役場で原本を確認し、写しを交付してもらうことができます。

また、これによって契約書の改ざんを防ぐこともできます。

3-4.訴訟をしないで強制執行が可能になる

これが公正証書の最大のメリットです。

通常の契約書で契約を締結した場合、例えば代金を支払ってもらえないなどの契約違反が起きた場合、すぐに強制執行、つまり相手の預金口座を差し押さえたり不動産を差し押さえて競売にかけたり、といった手段を執ることができません。まずは訴訟を提起し、その中でその契約書を証拠として提出し、最終的には相手に支払いを命じる判決を下してもらい、さらにその判決が「確定」しないといけません。そこまでしてはじめて強制執行が可能になるのです。

しかし公正証書の場合、「強制執行認諾文言」という、「違反した場合はすぐに強制執行されても受け入れます」という内容の文言を入れることにより、訴訟を提起せずに強制執行が可能となります。

4.公正証書作成の方法

4-1.お互いに協議して契約内容を決める

まず、公正証書に記載する契約内容を決めることが必要です。公証人は交渉や協議を仲裁してくれるわけでも、契約内容に関してアドバイスしてくれるわけでもありませんので、契約内容については、事前に当事者間で協議して決めておく必要があります。

4-2.公正証書の素案を作成する

公正証書は公証人が作成するものですが、その具体的な文章や文言を全て作成してくれるわけではありません。

契約内容が固まった後、引き続き当事者間で協議して、作成されるべき公正証書の素案を作っておきましょう。

それをあらかじめ公証人に提出すれば、公正証書にふさわしい形式に直してくれたり、場合によっては問題点を指摘してくれたりする場合もあります。

4-3.必要書類を揃える

次に必要書類を揃えます。必ず必要なのは「作成名義人の本人確認書類」です。免許証、あるいは実印と印鑑証明などですが、マイナンバーカードでも大丈夫です。

なお、不動産売買や不動産賃貸借の契約書の場合は、不動産の登記簿謄本や固定資産評価証明書の提出も必要となります。

また、当事者本人の代わりに代理人が公証役場に出頭して手続きを行う場合は、本人の実印で押印した委任状と印鑑証明書が必要となります。

その他、後述のように実際に公証人とのやり取りが始まった後に、別途その他の必要書類の提出を指示される場合がありますので、その場合は指示に従って、必要書類を揃えましょう。

4-4.公証役場への連絡

上記4-1ないし4-3の準備が整ったら、いよいよ公証役場へ連絡して、公正証書を作成したい旨とその契約内容等を伝えます。

なお、公証役場は全国に約300か所あり、特に都市部に集中していますが、特に管轄等は無いので、どこの公証役場でも大丈夫です。

また、初回の連絡はまず電話で連絡することが多いですが、公証役場によってはメールやホームページの問合せフォームから連絡可能なところもあります。

4-5.公証役場の担当者や公証人とのやり取り

その後、公証役場の担当者を通じて、公正証書の素案や必要書類を提示し、公証人から素案の訂正や追加の必要書類の提出等の指示があるなどのやり取りを行うことになります。

こうしたやり取りを何回か行って、作成すべき公正証書の文面を事前に決めておくことになります。

4-6.公正証書作成の日時の予約

それが済んだ後は、実際に公証役場に赴いて公正証書を作成する日時の予約をとることになります。場合によっては初回の連絡時に作成日(出頭日)の予約が可能なこともあります。

4-7.当日、双方当事者が公証役場に行って手続きを行う

予約した日の当日は、必要書類や費用を持参し、当事者全員(またはその代理人)が公証役場へ行きます。

公証役場では、まず公証人が本人確認書類の提示を求め、当事者本人(または代理人本人)であることを確認します。

その後、事前に打ち合わせた公正証書の文面を当事者またはその代理人の面前で読み上げるなどして確認します。

当事者またはその代理人は、公証人の面前で、内容に間違いがないことを確認し、公正証書の原本に署名・押印し、最後に、公証人が署名・押印することによって公正証書が完成します。

完成した公正証書の原本は公証役場に保管されますが、当事者には正本または謄本が交付されます。

なお、公正証書に強制執行認諾文言を付したときは、債務者となるべき当事者に対し、公正証書を送達する手続きが別途必要になります。強制執行手続きを行う際は、上記の通り訴訟は必要ありませんが、債務者が公正証書を受け取ったことを証明しなければならないからです。

ただ、送達の手続きを郵送で行うと時間や費用がかかりますので、公正証書作成日に債務者本人が出席した場合は、その場で公証人から債務者に公正証書を手渡す「交付送達」という手続きをとってもらうことが可能です。送達手続きをとったら「送達証明書」を受け取ってください。

5.公正証書作成の費用

公正証書作成のためには、公証役場に一定の手数料を納める必要があります。

契約書のような、契約や法律行為に係る証書作成の場合、原則として、その目的価額により、以下のような表で定められています。

「目的価額」というのは、その行為によって得られる一方の利益、相手からみれば、その行為により負担する不利益ないし義務を金銭で評価したものです。目的価額は、公証人が証書の作成に着手した時を基準として算定します。

ここで注意しなければならないのは、当事者双方に利益ないし不利益が生じる場合、その金額の合算が目的価額になるということです。

したがって、贈与契約のように、当事者間で一方的に利益が生じる場合は、その贈与物の価値そのものが目的価額になりますが、売買契約のような場合は違います。売買契約は、売主は代金を得る利益があり、買主は目的物を得る利益がありますので、売買代金の2倍が目的価額となります。

賃貸借契約の場合は、契約期間分の賃料の2倍が目的価額とされます。

目的価額と手数料については、詳しくは以下の表の通りです。

【法律行為に係る証書作成の手数料】(公証人手数料令第9条別表)
目的の価額 手数料
100万円以下 5,000円
100万円を超え200万円以下 7,000円
200万円を超え500万円以下 11,000円
500万円を超え1000万円以下 17,000円
1000万円を超え3000万円以下 23,000円
3000万円を超え5000万円以下 29,000円
5000万円を超え1億円以下 43,000円
1億円を超え3億円以下 43,000円に超過額5,000万円までごとに13,000円を加算した額
3億円を超え10億円以下 95,000円に超過額5,000万円までごとに11,000円を加算した額
10億円を超える場合 249,000円に超過額5,000万円までごとに8,000円を加算した額

参照:日本公証人連合会 手数料

6.公正証書のその他の注意点

6-1.本当に公正証書にする必要があるかどうか慎重に検討する

公正証書は様々なメリットがありますが、反面、上記の通りそれなりの額の手数料がかかる場合があり、また公証役場とやり取りをしたり必要書類を揃えたり、手間暇もかかります。

さらに、公正証書は、当然ながら相手方当事者と共に公証役場に行って手続きをする必要があるため、そもそも相手方が公正証書作成に同意していない場合は成り立ちませんので、もし相手当事者が同意してくれない場合は、別途説得する必要もあります。

こうした時間や労力、費用を負担してまで、その契約書を公正証書にする価値があるのかどうか、慎重に検討することが必要といえます。

6-2.弁護士に相談をする

上記6-1に関わる話でもありますが、公正証書を作成する場合、あるいはそれを検討している場合は、一度弁護士に相談することをお勧めします。

公正証書は、上記の通り公証人とやり取りをし、文案を完成させるなどの作業が必要となりますので、法律上の知識が少なからず必要になる場合が多く、また相手方に同意してもらうための交渉も必要になります。

さらに、根本的な問題として、上記6-1で述べたように、そもそもその契約書を公正証書にする必要があるかどうかも慎重に検討する必要があります。こうしたことを適切に判断するためにもやはり一度は弁護士に相談された方が良いでしょう。

7.おわりに

いかがでしたでしょうか。冒頭記載の通り、公正証書は、割と馴染みある言葉ですが、その正確な内容や制度については意外と知られていません。

しかし、公正証書は、使いこなせば極めて有効な法律上の手段となります。

これを機に、必要であれば公正証書も活用し、安心かつ確実な契約事務を実現し、より円滑な企業活動に繋げていただければと思います。

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