就業規則とは
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目次
はじめに
今回は、経営者様であれば、一度は耳にする「就業規則」についてお話しさせていただきます。
もう何年も会社を運営されている経営者様の中には「就業規則って何か昔、社労士の人に言われて作ったっけなあ、どっかにしまってあったっけ?」なんて言われる方もおられるかもしれません。また最近、会社を起業興された経営者様には「就業規則って、何か聞いたことあるな。うちも就業規則を作らなきゃいけないのかな?」と不安に思われる方もいらっしゃるかもしれません。ぜひご参考にしてください。
就業規則とは
まず、そもそも就業規則とは何でしょうか?
一言で言えば会社の法律です。
人の集まりがあれば、そこには決まりができます。大きな人の集まりである国家には法律という決まりがあります。国家に比べ、小さな人の集まりである都道府県や市区町村にも条例という決まりがあります。もっと小さい例で言えば学校にも校則という決まりがあり、さらに小さい家族にもお父さんの月々のお小遣いや、子供さんのゲームをしていい時間などの決まりがあるかもしれません。会社という人の集まりの大きさは千差万別ですが、一定以上の大きさの会社は、会社の決まりである就業規則を作らなければならないのです。
そして、合理的な内容の法律に私達国民が従わなくてはならないのと同じように、就業規則が合理的な労働条件を定めるものであれば、この労働条件に従って従業員は働かなくてはならない、ということになります。
この就業規則は、作成した後、会社の本店を管轄する労働基準監督署(いわゆる「労基署」)に提出しなければなりません。
どんな会社が就業規則を作らなければいけないのか?
では就業規則を作らなければならない一定以上の大きさの会社とは、どれくらいかというと、「常時10人以上の労働者が労働する事業場」がある会社です。
(1)アルバイトは10人以上にカウントされるか?
「なんだ!労働者10人以上か。うちは10人以上雇ってるけどさ、アルバイトばかりのお店だから就業規則なんていらないでしょ?」とホッとされた経営者様もいらっしゃるかもしれません。
労働者というと分かりにくいのですが、実はここでいう労働者には正社員はもちろん、契約社員やアルバイト(パートタイマー)などの非正規の社員も含むのです。(なお、派遣労働者は、派遣「元」の労働者ですので、派遣「先」の事業場で10人にはカウントされません。つまり、例えば正社員3人、契約社員2人、アルバイト3人、派遣社員3人で仕事をしているお店は11人働いているけれど、就業規則の作成義務はありません。)
(2)常時10人以上ってどういう意味?
また、ここでいう「常時」10人以上とは、ある事業場で通常10人以上の労働者が働いている場合をいいます。だから、いつもは10人以上が働いているが一時的に10人未満になることがあるという会社は就業規則を作らなくてはいけませんが、いつもは10人未満で一時的に10人以上になることがある会社は就業規則を作らなくても良いことになります。 就業規則を作らなくてはいけない前者の会社の例として、いつもは10人で働いているが年に一度くらいアルバイトさんが辞めて9人になる時期がある(けど、すぐアルバイトさんを補充する)会社が挙げられます。一方、就業規則を作らなくても良い後者の会社の例として、いつもは8人でやっているが、繁忙期だけに3人雇い入れる引っ越し屋さんなんかが挙げられます。
(3)10人以上いる会社でも…。
また「10人以上」の判断は、「企業ごと」でなく「事業所ごと」にされます。そこで、10人以上を雇用している会社であっても、複数の事業場(本店・支店)があり、それぞれの労働者が10人未満であれば、就業規則を作成しなくてもいいことになります。飲食店では、そんなことがあるかもしれませんね。
正社員の就業規則と非正社員の就業規則
そして会社の就業規則の作成義務は、正社員だけでなく契約社員やアルバイト等の非正社員についても生じます。そこで、複数の雇用形態の労働者がいる事業場では、それぞれの雇用形態を対象とした就業規則を作らなくてはなりません。
就業規則作成の罰則
就業規則の作成義務に反した場合、30万円の罰金に処せられます(労働基準法120条1号)。
就業規則の記載事項
(1)就業規則には何を書けば良いの?
どのような会社が、就業規則を作らなければならないのかは分かりました。
では、就業規則には何を書けばいいのでしょうか?
労働基準法89条によれば、就業規則に書かなければならない事項として、必ず記載しなければならない「絶対的必要記載事項」(同条1〜3号)と、制度として実施する場合には記載しなければならない「相対的必要記載事項」(同条3号の2から10号)があります。
これらについて気をつけなければならない事項は、実は本当に膨大で全てを事細かにお示しすることは出来ませんが、概要と一部抜きとってのご説明をさせていただきます。
(2)就業規則の「絶対的必要記載事項」と「相対的必要記載事項」
まず就業規則に必ず記載しなければならない「絶対的必要記載事項」には、以下のものがあります。
- ア.退職手当に関する事項
- イ.賃金に関する事項
- ウ.退職に関する事項
一方、制度として実施する場合には、就業規則に記載しなければならない「相対的必要記載事項」には、以下のものがあります。
- 退職手当に関する事項
- 臨時の賃金等及び最低賃金額に関する事項
- 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めに関する事項
- 安全及び衛生に関する定めに関する事項
- 職業訓練に関する定めに関する事項
- 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めに関する事項
- 表彰及び制裁の定めに関する事項
- 当該事業場の労働者のすべてに適用される定めに関する事項
(3)就業規則の「絶対的必要記載事項」
「絶対的必要記載事項」は、就業規則に必ず記載しなければならないので、なんとか完璧に作るしかありません。この「絶対的必要記載事項」の一部を欠いたとしても就業規則全体が無効になるわけではないと考えられていますが、欠陥のある就業規則を作成して届け出たとしても、きちんとした就業規則を作成して届け出たわけではないのだから、上記記載の30万円以下の罰金を科されても文句は言えないということになってしまいます。
「絶対的必要記載事項」は、ア.労働時間に関する事項、イ.賃金に関する事項、ウ.退職に関する事項と、たった3つの事項しかありませんが、とても細かい決まりがあるので、私たち弁護士もとても気をつかって作成します。
例えば、昇給についての決まりも、㋑賃金に関する事項に当たりますが、これも言葉一つで従業員とのトラブルになりかねません。例を挙げると、就業規則に「毎年、昇給する」と書いてあるのに、実際に昇給がされなかった場合、「債務不履行」といって会社が義務を果たさなかったことになるとする考え方があります。従業員の方が、そのような考え方にしたがって裁判をしてくることも視野に入れて、私は「毎年、昇給することがある」と書くことをお勧めすることがあります。本当に小さな違いなのですが、言葉ひとつ付け加えるかどうかで後々トラブルが生じるかどうか、そして生じたトラブルが円満に解決できるかどうかが変わってしまうのが就業規則の怖いところです。
また給料を下げる、つまり「降給」をする場合も、就業規則に降給の決まりを作らなければなりません。降給をしなければならない事態を経営者様は考えたくないと思います。だけど、会社が大変な一時期に給料を下げてしのがなければならない時もあると思います。どんなに教育してもなかなか仕事ができるようにならない従業員の方の給与を下げざるを得ない場合もあるかもしれません。降給しなければならない事態はない方が良いに決まっているけれど、備えあれば憂いなしです。そのため、就業規則を作るとき降給の規定も提案させていただくことがあります。
(4)就業規則の「相対的必要記載事項」
次に「相対的必要記載事項」です。
「相対的必要記載事項は、その制度を設ける場合に必要になるだけで、うちの会社は退職金の制度も、表彰の制度もいらないから、就業規則に書かなくて良いですよね!じゃあ、これで就業規則は完成!」と言いたくなるかもしれません。
しかし、「相対的必要記載事項」のなかにも絶対に書いてほしいものがあります。それは、「制裁の定め」です。
「制裁の定め」とは、例えば、会社の悪口をネットに書き込んだ従業員に、処分をしたいという場合に、その処分を出来るようにするための決まりのことです。
「そんなバカな!悪いことをした従業員を処分するのに就業規則に決まりを作らなければならないのか!」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、そうなんです。国家が国民に刑罰を科すためには、国民が何をすれば刑罰を科されるのか予測できるよう犯罪と刑罰を事前に法律に定めておかなければなりません。これと同じように何をやったら職場で処分されるのかを従業員が予測できるように、懲戒の理由と、懲戒処分の内容を就業規則に書いておかなければならないのです。
この「制裁の定め」の書き方も、なかなか細かく、漏れなく適切な決まりを作ることが肝であり、弁護士が企業の就業規則の制定に関わる場合は、弁護士の腕の見せどころです。例えば、会社が懲戒処分をできるのはあくまで会社の秩序を守るためですから、就業時間外に会社の施設の外で行われた従業員の非行(例えば、会社の業務と関係なく交通事故を起こしてしまった。万引きをしてしまった、という場合です。)は原則として懲戒処分の対象とはならないとされています。
しかし、例えば、「企業外非行行為により会社の名誉、信用を毀損し、又は会社に損害を与えた場合、その他企業外非行行為によって企業秩序を乱した場合」等と、企業外非行と会社の利益をリンクさせることで、一部の企業外非行も懲戒処分の対象にできるように就業規則を作って会社の利益を護れるようにすることもできます。
就業規則完成したあとにおこなうこと
(1)就業規則の意見聴取義務
ただ、就業規則が出来上がっても、まだあと少し作業が残っています。
まず、就業規則の意見聴取義務(労働基準法90条1項)というのがあって、従業員の代表者等から就業規則への意見をもらって、就業規則に意見書をくっつけて届け出なければなりません。ただ、意見と言っても、従業員の代表者等と協議をしたり、その同意を取ったりする必要まではなく、「諮問をする(意見を求める)」だけで足りるとされています。
(2)就業規則の「周知」
就業規則に意見書をつけて届け出るだけでなく、最後に、この就業規則を従業員に「周知」させなければなりません。
この「周知」の方法としては、下記の3つの方法があります(労働基準法施行規則52条の2)
- 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること。
(就業規則を誰もが見ることができる見やすい場所に置く) - 書面を労働者に交付すること。
(従業員に直接書面で渡す) - 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること。
(パソコンなどに誰もが閲覧できる場所にデータで入れておく)
この周知義務に違反しても、まだ30万円以下の罰金になってしまいますので、最後の最後まで、気を抜かないで周知しましょう。
まとめ
今回は就業規則作成の流れを、ほんの少し具体的な問題点に触れながらお話ししました。「ほんの少し」と言われて、耳を疑った方もいらっしゃるかもしれませんが、これでも本当にほんの少しなのです。当事務所の弁護士も、就業規則を作るときは、複数の弁護士で討論しながら時間をかけて作成いたします。就業規則は「会社の法律」ですから、適当に作成するわけにはいきません。
就業規則に間違いが許されない理由は、会社と従業員との関係を正常に保って、トラブルにならないようにするためです。
そして、就業規則の変更は、労働者にとって不利益に変更されることを防ぐために、大きなハードルがあります。
つまり、適当な就業規則を作っておいて、この部分おかしかったから変えようか、という変更は簡単にできません。
社長さんの経営力がある会社ほど、あっという間に大きくなります。しかし気を抜いて作った就業規則は、従業員の大きなトラブルの元になります。もちろん、会社の規模に合わせて就業規則を変更することは必須ですが、可及的にトラブルを防止できるよう、まず最初に抜かりの無い就業規則を作ることこそが肝心です。
可能であれば具体的な規則について弁護士に相談して、経営者と労働者の双方にとって安心な会社の体制を作りましょう!
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