そろそろ夏の季節!
経営者が知っておくべきクールビズと冷房、室温に関する法律
そろそろ夏の季節!
経営者が知っておくべきクールビズと冷房、室温に関する法律
そろそろ夏の季節!梅雨の時期が過ぎれば本格的な夏となります。
この季節に定着してきたクールビズや会社内の冷房、室温に関する法律があるのはご存じですか?
目次
はじめに
6月に入り、日に日に暑くなってきました。
会社によってはそろそろ冷房を入れ始め、またクールビズにより軽装で業務を行っているところもあると思います。
今回は、そのクールビズと室温に関する法律の話です。
契約に関することでもなければ、大きなお金が絡む話でもないので、意外と意識されていないことが多いですが、場合によっては大きなトラブルになる可能性もありますので、本格的な夏の到来前に押さえてしまいましょう。
クールビズとは
クールビズとは、環境省が地球温暖化防止対策のため、平成17年以降に提唱した企業での取り組みのことで、冷房時の室温を28℃程度にし、それを前提に快適に過ごせる軽装や取り組みを促すというものです。
なお、注意しなければならない点として、28℃というのは「室温」のことであって「冷房の設定温度」のことではありません。冷房の設定温度を28℃にしても、室内に常時熱を発する機械等があれば、室温も必ずしも28℃になるとは限りません。そういう場合は、設定温度を調整することも考えられます。
なぜ28℃なのか
明確な科学的根拠は無く、あくまで目安
まず、「28℃」という数値自体には科学的に明確な根拠があるわけではありません。あくまで「このくらいの気温で軽装なら快適に過ごせるだろう」という目安に過ぎません。
したがって、必ず「28℃」でなければいけないということではなく、外の気温や湿度、「西日が入るか」といった場所的環境、建物の構造、空調施設の規模や種類などの状況、そして室内にいる人の体調等を考慮しながら、無理のない範囲で冷やし過ぎない室温管理の取り組みをお願いする上で、目安としているものです。
科学的根拠は無いが「一応」の法的根拠はある
上記の通り、28℃という温度に明確な科学的根拠はありませんが、「一応」法的根拠はあります。
労働安全衛生法という、労働者の安全や衛生を守るための法律があるのですが、その法律に基づく基準規則として「事務所衛生基準規則」という規則があり、その第5条1項3号は以下のように定めています。
事務所衛生基準規則 第5条1項3号
事業者は、空気調和設備を設けている場合は、室の気温が十七度以上二十八度以下及び相対湿度が四十パーセント以上七十パーセント以下になるように努めなければならない。
このように、法律上の基準規則で室温の上限が「28℃」と定められているので、クールビズ上の目安室温も「28℃」とされているのですが、別にこの規則自体がクールビズの法律という訳ではありません(この規則自体、昭和の時代からあります)。
環境省がクールビズを提唱するにあたって、具体的な室温目安を決める際、この基準に目を付けて上限値である「28℃」という数字を拝借しただけなのです。なので「一応」の法的根拠というわけです。
クールビズに法的拘束力はあるのか
結論から言うと、クールビズそのものには法的拘束力はありません。
クールビズはあくまで環境省が提唱している取り組み、指針のことであり、法律上義務付けられているわけではないからです。
そもそも28℃という室温自体もあくまで目安ですし、もちろん服装についても別に何か具体的な義務があるわけではありません。
また、28℃の(一応の)法的根拠となっている上記事務所衛生基準規則第5条1項3号も、「~になるように努めなければならない」という文言になっていますから、あくまで努力目標、つまり「できる限り努力してね」と定めているだけで、必ず達成しなければならないわけではないのです。
ですからクールビズに取り組んでいないからと言って、それだけで法律違反になるわけではありませんし、罰則があるわけではありません。
しかし、後述する通り、室温等の室内環境については、別の側面から法的義務が生じる場合がありますので注意が必要です。
労働法上の義務
労働契約法の条文
労働契約法
(労働者の安全への配慮)
第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
これは、使用者つまり会社の経営者が、労働者に対して負う安全配慮義務について定めた条文です。
安全配慮義務
まず室温について、この条文の趣旨からすれば、例えば猛暑日なのに、合理的な理由も無いのに冷房を禁止しているとか、逆に外はものすごく寒いのにやはり合理的な理由なく暖房を一切禁止する、というのは、明らかに過酷な労働環境に労働者を置くことになるので、「安全配慮義務」違反として法的責任が発生し、場合によっては損害賠償責任を負わせられることにもなります。
もちろん、これは極端な事例ですが、例えば「冷房は○月1日から」とか、「冷房の温度は〇度まで」というルールがある場合、そのルールが外の気温等の状況に照らして明らかに不合理な場合などは、やはり安全配慮義務違反になる可能性がありますので、注意が必要です。
したがって、夏日に室温が28℃以上になっている場合、上記の通り28℃という温度自体は目安や努力目標に過ぎないとしても、やむを得ない事情が無いのであれば、場合によっては「安全配慮義務違反」と認定されやすい方向に傾く可能性もあるでしょう。
服装についても
合理的な理由も無いのに、夏なのにやたら厚い服装を義務付けたりすると、安全配慮義務違反となる可能性があります。
事務所衛生基準規則上の義務
さらに、上記で見た「事務所衛生基準規則」の第4条第2項では、室温と冷房について以下のように定められています。
事務所衛生基準規則 第4条2項
事業者は、室を冷房する場合は、当該室の気温を外気温より著しく低くしてはならない。ただし、電子計算機等を設置する室において、その作業者に保温のための衣類等を着用させた場合は、この限りでない。
これは読んでの通り、冷房を入れる場合は室温を外気温より著しく低くしてはならないという「義務」を定めたものです。義務ですから、違反すれば罰則が適用される可能性があり、また労働者に対する損害賠償責任を負う可能性もあります。
なお、この条文では、上記で見た同じ事務所衛生基準規則の第5条1項3号のような具体的な温度設定があるわけではないので、どのくらいの温度が「著しく低い」ということになるのかはケースバイケースということになりますが、例えば寒気がしたり厚着したくなったりするほどガンガンに冷房を入れてしまう等の場合は、この義務に違反していると評価される恐れがあるでしょう。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
クールビズはすでに我々にとって身近な言葉として定着しており、また上記の通りクールビズ自体に法的拘束力は無いので、あまり意識する場面は無いかもしれませんが、冷房や室温については、場合によっては法的義務が発生し、一歩間違えれば大きな労働問題となってしまう可能性もあります。
適切な労働環境の維持という観点からすれば、それは夏に限った話ではありませんが、夏という季節は、室内が暑すぎる場合は勿論のこと、逆に冷房が効きすぎて寒すぎる場合もあり得、両方の意味で体調を崩しやすい時期であり、それゆえに適切な労働環境の維持により気を付けるべき時期であるとも言えます。
これから本格的に夏が到来する前に、改めて適切な室温となっているかどうかを見直し、実際にその場所で働く社員の方の意見も聞きながら、気持ち良く快適に働ける環境を整えていただければと思います。
法律的な問題・疑問をいつでも、どんなことでもお気軽にチャットでご相談頂けます。
リーガルコネクトでは、ご相談頂いた内容に、原則24時間以内にご回答いたします。
関連コラム
契約書で見落としがちな重大ポイント10 契約書を訂正・変更する方法
契約書で見落としがちな重大ポイント9 見落とすと実はマズいかも? 収入印紙の話
契約書で見落としがちな重大ポイント8 契約書は公正証書にすべき? 今さら聞けない公正証書の基本
契約書で見落としがちな重大ポイント7 最大14.6%? 契約における遅延損害金の利率について
契約書で見落としがちな重大ポイント6 連帯保証人と民法改正について
契約書で見落としがちな重大ポイント5 基本契約書と個別契約書
契約書で見落としがちな重大ポイント4 再委託に関する規定
もうすぐ夏休み!会社の休日と休暇の設定、管理は大丈夫ですか?
そろそろ夏の季節!経営者が知っておくべきクールビズと冷房、室温に関する法律
パワハラの定義とは? 新入社員を迎えるにあたって気を付けるべき点
契約書で見落としがちな重大ポイント3 契約書の損害賠償条項
成人年齢が18歳に引き下げられることによる会社への影響と対策
法律的な問題・疑問をいつでも、どんなことでもお気軽にチャットでご相談頂けます。
リーガルコネクトでは、ご相談頂いた内容に、原則24時間以内にご回答いたします。