建築設計報酬の不払いを防ぐ3つの方法

建築設計報酬の不払いを防ぐ3つの方法

建築業者が知っておくべき相隣関係トラブル対処法

設計士の仕事は、まず顧客の要望を聞いて、図面を引くことからはじまりますよね。その上で、苦労して図面を何度も引き直し、顧客と打ち合わせては、顧客の要望を反映させて行くべく努力をします。そうやって、必死で要望に応えてきたのに、さんざん協議したあげく、結局「やっぱり他に頼むわ」と言われてしまい、契約締結に至らず、タダ働きをさせられてしまった…という事はありませんか。
簡単なやりとりだけだったならいいのですが、延々と何ヶ月にもわたって、数十回の打合せを繰り返し、図面だけでも何百枚と引かされて、建材の商品番号までメーカーから取り寄せ、それで、「やっぱやめるわ、はい、さようなら、契約しません」では、到底納得のいくものではありません。
しかし、裁判所は、残念ながら、契約締結前の行為は営業活動としてタダ働きは当然という感覚をもっています。「コンピューターで引いている図面でしょ」と言った裁判官に対して「お子様のお絵かきソフトで絵を描いているんじゃないんだ」と、建築士が叫んだというのは有名なエピソードです。ただ、こういった裁判所の発想だと、とてもとても、事が起こってから対処しようとしても、こちらサイドの利益は守ってくれそうにありません。

では、どうすれば、タダ働きを防げるのか、自衛の方法を考えてみましょう。

建築設計も契約である以上、契約書は必用です

建築設計を行うという業務は、施主との設計契約ですので、あくまで、書面ベースの契約書の作成が契約のスタートになります。

平成27年6月の建築士法の改正で、300平米以上の建物の建築設計には契約書の作成が義務づけとなりました。

こうなってくると、なおいっそう、契約前、契約後という区別ははっきりしてきますから、契約締結前の行為はあくまで契約締結前の行為として、裏切られても「期待した方がわるい」となりかねません。

建築設計士側にとってはこのことを危機感を持って自覚しないといけません。

契約締結前の費用についての裁判所の考え方

残念ながら、先に述べたとおり、裁判所の考え方は、契約締結前であることをもって、打ち合わせ費用や、図面の作成行為などはすべて営業活動費用に過ぎないとして、建築設計士からの費用をすべて棄却しています。
(東京高裁2010年10月6日 原審宇都宮地裁)

こうなってくると、いったんことが起こって施主と対立してしまうと、法の力を借りることはきわめて難しくなってしまうというのが実態です。

タダ働きを防ぐ3つの方法

では、どうやったらタダ働きの被害を食い止めることができるのでしょうか。3つの方法をまとめてみました。

契約書の作成を強行する

強行という言い方は悪いですが、裁判所の考え方が、上記のとおり、契約締結前の報酬については単なる営業費用であり、請求は認めないというものである以上、最大の防衛策は、とにかく仕事と言われるものを始めるのであれば、契約書を作成してからでなければ、何もとりかからないと徹することが一番です。

もちろん、そういった杓子定規なことをしていたら、失う契約も出てくるかもしれません。

しかし、契約を期待して何ヶ月も振り回されて、あげく全く回収できない実働を強いられるのであれば、契約締結を渋る施主はどこか危ないと判断して、次の仕事にかけるのもビジネスの割り切りではないでしょうか。
少なくとも、契約締結前に基本設計には入らない、この鉄則だけは守った方がよろしいかと思います。

営業行為の費用請求をする

どうしても、契約書が締結できないが、先に進む必要がある場合、一つ一つの図面作成について、値段を示して発注書をとるか、あるいは、包括して事前準備行為としてある程度の費用を合意して支払う約束をとりつけておくことも重要な防衛策です。

先の裁判例が「営業行為についての請求がなされていれば格別、」というような言い回しをしていますから、逆に考えれば、契約締結前であっても、その準備行為として、費用負担を合意して請求していれば認められる可能性が出てくるわけです。

世知辛い行為のように思いますが、これも立派な自衛策です。

やりとりの実態を残しておく

それでも、トラブルになったときのために、すべてのやりとりについて必ず形に残る痕跡を残しておくことが大切です。メール、FAX、図面への書き込み、図面の受領書、などなど、方法はいろいろあると思います。一つ一つ面倒ではありますが、こういった労を惜しまないことが、トラブルを防ぐ最大の防衛策です。

まとめ

結局、契約書の作成が一番の安全策ですが、契約書については、特に書式が確定しているわけではありません。

受発注の意思がきちんと確認できる形でポイントを押さえることが大切になってきます。

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