アフターコロナ目前 オフィスや店舗の安全、大丈夫ですか?
企業に求められる安全配慮義務の話
アフターコロナ目前 オフィスや店舗の安全、大丈夫ですか?
企業に求められる安全配慮義務の話
今回は、企業における安全配慮義務についてご紹介いたします。
商業施設などの店舗における「安全配慮義務」に関しては、実際の裁判事例をご紹介しながら、お伝えします。
また昨今新型コロナウイルスの影響により、働き方そのものが変化し、オフィスだけでなく、在宅による就業も増えています。
そのため、過重労働や長時間労働に悩まされる労働者が増えてきているのも現実的問題でもあります。
企業の法務ご担当者様は、もしものトラブルに向けて注意し、早めに弁護士へ相談することをおすすめいたします。
目次
はじめに
新型コロナウィルスの問題はまだまだ解決には程遠い状況ですが、他方で感染者数も以前に比べれば大幅に減り、ワクチン接種も普及しつつあるなど、少しずつ復旧に向けて動きつつあります。
企業によっては在宅勤務から出社へと戻る従業員が増え、何らかの店舗を有する企業では、顧客の来店数も再び多くなったところもあると思います。
こうした、社会経済にとっては嬉しい状況になりつつある反面、改めて気を付けなくてはいけないのは、オフィスや店舗の安全性です。今回は、オフィスや店舗の安全に関する、「安全配慮義務」の話をしたいと思います。
話題になった裁判と安全配慮義務
話題の裁判事例をご紹介
最初に、こうした安全にまつわる話として、最近話題になった裁判の事例を一つ紹介したいと思います。
今から約3年前に、スーパーの床に落ちたカボチャの天ぷらで足をすべらせて転倒した利用客が、店側に対して約140万円の損害賠償を求めた裁判がありました。
一見、不注意な客による言いがかりな裁判とも思えますが、なんと一審の東京地裁では、天ぷらを床に落としたのは従業員ではなく他の利用客であったと認定したものの、「商業施設での転倒事故350件のうち67件が落下物によるものとの消費者庁の調査も踏まえ、店側には落下物が生じないよう管理する注意義務があった」として過失を認め、約57万円の賠償を店側に命じました。
その後、東京高裁に控訴され、東京高裁は「レジ付近通路に商品が落ちるのは通常想定しがたく、混んでいても客が落下物を避けるのは困難ではないとして特段の措置を取る義務があったとは言えない」として1審の判決を取り消し、店側の逆転勝訴となりましたが、1審の判決が出た当時は人々に大きな衝撃を与えました。
企業に求められる安全配慮義務の内容
上記の通り、この裁判はかなり話題になりましたが、裁判で重要なポイントの一つとなったのは、まさに「企業の安全配慮義務」です。
安全配慮義務とは、「ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務」と定義されています。
つまり、明確な約束や契約をしていなくとも、一定の状況下にある対象者の安全を守るべく注意し、必要な措置を講じる義務が生じ、これに違反して損害を生じさせた場合は、損害賠償を負うことになるのです。
この裁判でも、まさにこの義務違反の有無が問題となり、上記の通り裁判所同士で判断が分かれるなど、かなり難しい、油断のならない法的問題であったと言えます。
顧客ではなく従業員に対しても安全配慮義務は生じる
こうした安全配慮義務は、顧客だけではなく、従業員に対しても生じます。具体的内容はケースバイケースですが、工事現場や工場等でイメージされるような物理的な安全性の確保だけでなく、健全な労働環境の確保や、労働者全体の適切な管理体制の確保も求められます。
例えば、裁判になった事例では、パワハラにより精神疾患を発症して長期間休職した労働者に対して、安全配慮義務違反として約1100万円の賠償命令が下された事例や、過重労働、長時間労働によりうつ病になり自殺した労働者の遺族に対して、やはり安全配慮義務違反として約7000万円の賠償命令が下された事例もあります。
このように従業員に対しても安全配慮義務が生じますので、店舗を持たない、オフィスだけの企業であっても、決して無縁な話ではないのです。
安全配慮義務の内容や程度はケースバイケース。トラブルになったらすぐに弁護士に相談を!
では具体的に安全配慮義務としてどのような措置を講じなくてはならないのか、どのような場合に義務違反となってしまうのか、これについてはケースバイケースとしか言いようがありません。
それこそ、その企業の業務体制、業務内容、対象者の属性やその関係、事故が起きた現場の具体的状況、等々、あらゆる事情を総合考慮して決せられるので、一律に決まるものではありません。
しかし、そうであるがゆえに、この安全配慮義務をめぐっては、膨大な裁判例の蓄積や法律学上の議論があり、判断者によって判断が異なることも多いのです。
最初に紹介した裁判で、1審と2審で結論が全く逆になったのがそのいい例と言えるでしょう。
「客や従業員の安全を守る」という至極単純なことでも、意外と奥深く、難解で、油断のならないテーマなのです。
ですので、万が一、顧客や従業員との間で安全にまつわるトラブルが生じた際は、早いうちに弁護士に相談し、自社に安全配慮義務違反があると言えるか、トラブルの相手である顧客や従業員に対してどう対応し、また裁判になった場合はどのように戦っていくべきか、について、よくよく検討する必要があると言えます。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
コロナの収束にともなって、オフィスや店舗に人が戻りつつあるのは嬉しいことですが、長い間、在宅勤務や巣ごもりによって人と接触しない、出歩かない生活を送っていると、知らず知らずのうちに周囲への注意や安全に対する意識が低くなってしまっている可能性もあります。
そうした状況では改めてオフィスや店舗の安全を今一度見直し、間違っても大きな事故にならぬよう、くれぐれも注意していただければと思います。
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