建築訴訟、どう対応すればいい? ~実際の裁判の現場から~
建築訴訟、どう対応すればいい? ~実際の裁判の現場から~
できあがった建物に納得がいかないと言われて、施主ともめてしまい、代金の支払いやその他でがたがたとトラブルになっていたところ、裁判所から訴状が届いてしまった。こちらこそまだ回収していない報酬が残っているというのに、訴状にはこれまでに払った報酬全部返せ、その上で損害賠償まで払えと書いてある!
「なにこれ、どうしたらいいの?」と、パニックになっている場合ではありません。訴訟の手続きはどんどん進んでいきます。対応をもたついていると、対応しないことを一つの証拠としてとらえられ、不利益をうけてしまいます。
むしろ、裁判所の土俵を堂々と利用させてもらうつもりで、恐れず、適格な対応をできるように対処法を学びましょう。
どんなトラブルが訴訟になる?
建築訴訟と言われるものには、いろいろな種類があります。
典型的なのは契約不適合責任を問うもの。改正前の民法では瑕疵担保責任といわれていたものです。できあがった家に住んでみたら、雨漏りがして、直しても直してもどうにもならないとか、どうも揺れるような気がして調べて見たら構造計算が間違っていたとか・・・。本来契約した家が予定していた性能を保持していない、というようなトラブルですね。
そのほかには、何らかの理由で施主が契約を解除し、すでに払った報酬を返してくれ、というような要求が訴訟になる場合もあります。設計が途中だったり、設計は終わったが建築途中だったりと、途中度合いはそれぞれですが、大切なのはまずどちらの責任で解約となったのか、さらに、責任はともかくとして、途中とはいえ、できたものはできたもので存在しているなら、出来高清算が行われることになりますから、どこまでできたといえるのかの認定が重要となります。
こういった事案がいわゆる建築訴訟と呼ばれるものです。東京では地裁民事22部が建築集中部として、これに対応しています。
訴状が来たらまずしておくこと
訴状は特別送達、という物々しい手続きで送られてきます。一言で言えば、書留のような、受領を確認する郵便物で来ると思っていただければいいです。これを受け取った場合、送達がされたということになりますから、指定された期日に出向いて答弁書(訴状に対する意見書)を提出しないと、訴状を受け取りながら、何も言い返す事が無かったとして、訴状に書かれた相手方の言い分を全部認めたことにされてしまい、訴状の請求通りの判決が言い渡されてしまいます(欠席判決)。
ですから、「何を言っているんだ」と頭にきて、訴状を破って捨てたり、放っておく、などという感情的な事はせず、必ず、きちんと対応しておくことが必要です。
訴状には、請求の趣旨といって、「いくら払え」というような原告の求める裁判が書かれている「請求の趣旨」という部分と、なぜこのお金を払えと自分はいいうるのか、と言う根拠である「請求の原因」という部分があります。
まず請求の趣旨について、とんでもない、と思うのであれば、これに対して、「原告の請求を棄却する」という答弁を提出しないといけません。
次に請求の原因について、建物を建てたことは認めるが、構造計算に間違いはない、など、認める部分と認めない部分の振り分けを行います。これが認否と言われるものです。
その上で、こちらの主張として、たとえば、「すでに直している」とか、「構造計算値の違いは、原告の希望で仕様変更をしたからだ」とか、こちらの言い分を述べていく事になります。
こちらの主張は後から出してもいいのですが、少なくとも、請求の趣旨に対する答弁だけは、第1回期日までに出しておかないといけません。訴状の送達がされてから、第1回期日まではだいたい1ヶ月くらいですから、ぼーっとしているとあっという間に来てしまいます。くれぐれも、期日を失しないように用心してください。
その上で、こちらがすでに変更工事や追加工事で別途代金がかさんでいるとか、出来高に見合った報酬をまだもらっていないので、出来高清算くらいしてくれとか、こちらが逆に請求していく場合には、「反訴」といって、こちらからカウンターで請求訴訟をかぶせる必要もあります。
大切なのは、こういった専門的なことを抜かりのないように進めて行くには、どうしても専門家の知識が必要だということです。訴状まで来てしまったら、もはや待ったなしです。一刻も早く専門家である弁護士に相談することが何より必要です。
具体的に裁判はどう進められる?(東京地裁民事22部建築集中部の裁判の実際から)
東京地方裁判所では、民事第22部が建築集中部として、多くの専門委員を要して、建築紛争に対応していますので、ここでの訴訟の進め方を例にとって説明したいと思います。
上述したように、第一回期日には訴状と、それに対応する答弁書がそれぞれ当事者から提出されます。そこで、大まかな争点が決まれば、専門委員の人選を行い、事件は調停に付されます。専門委員は一級建築士などの専門家が必要に応じて人選されます。さらに、選ばれた専門委員が、当事者のどちらとも利害を有していないかも厳にチェックされます。構造計算だとか、漏水だとかの専門家のように、もともと人数の少ない分野だと、結構建築会社と以前一緒に仕事したことがあったりなど、重なる部分が出てきたりして、人選には困難を極める事もあります。
専門委員が決まると、調停が開かれ、それぞれの主張や立証を精査し、場合に応じて現地に赴くなどして必要な調査を行い、調停案(双方当事者に歩み寄らせ、話し合いで合意に到達出来る斡旋案)を示します。当事者がこれをもとに話し合いが成立すれば、訴訟は和解合意で終了します。
斡旋してみたが双方の合意が得られなかった場合には、調停は不成立となし、訴訟手続きに審理は戻されます。しかし、その際、調停委員会の調停案を付して訴訟に戻されますので、結果的にはこの調停案がその後の訴訟の大筋を決める事になりますから、調停案にはなかなか逆らえないと思っておいたほうがいいでしょう。
この過程でも、瑕疵一覧表とか、追加・変更工事一覧表とか、専門的なデータの提出を絶えず求められますので(書式自体は裁判所のHPでとれます)、やはり専門家の援助無くして建築訴訟は遂行不可と思っておいた方がいいと思います。
訴訟に持ち込まれないためにしておくこと
さて、以上見てきた建築訴訟ですが、実際訴訟の場に言ってみると、裁判所では、かなりの確率で「専門家たる建築業者:何もわからない消費者」という図式でものを見てきますので、かなり、消費者保護という(これ自体は間違ってはいないのですが)独特の観点で事件を見てくることが多いようです。また、改正民法の契約不適合責任、というのも、以前の議論を整理し、債務不履行としての法的責任に統一していますから、契約通りのものを建てている、契約上の債務は果たしている、という立証をこちらがしないとなりません。その意味で、かなり負担は建築業者側に来ることになります。
厳しい言い方ですが、訴訟に持ち込まれると、なかなか無傷で終わることは難しいと思った方がいいと思います。そうなると、もし、こちらサイドに落ち度、あるいは不手際がある事案であれば、訴訟に持ち込まずに追われる道を模索しておくことも大切です。
まず、問題が起きたときに、初動を誤らないこと。ユーザーが知りたいのは、何がいけないのか(原因)、どうすれば直るのか(対策)、そしてそれはいつ完成するのか(時間)、この3点です。
家屋に不具合が起きたときには、まず専門家の力も動員して、原因を徹底的に探りましょう。
その上で、直せるものがあれば、速やかにこちらの手で直してしまうことです。これができずに最終的に決裂してしまうと、ほとんどの場合、別の業者が手直し工事をすることになりますから、瑕疵の特定、原因の解明という作業に加えて、手直し工事代金が適正かどうか(ぼったくられていないかということです)まで議論しなければいけなくなり、争点の解明は困難を極めてしまいます。
そして何よりも、できれば施主と決裂しないですむように、良好な関係を築き続けることも課題です。上記の3点を明確にし、施主の不安を取り除いてあげることが肝要なのです。
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