実は家庭の問題!?未公開株式の価格確定
実は家庭の問題!?未公開株式の価格確定
社長の離婚 株の権利はどうなる?
ある日、顧問会社の社長が、こっそり訪ねてきた。なかなかのイケメンで、仕事もできるが、六本木あたりで夜な夜な名をはせている遊び人でもある。
社長「先生、私、離婚するんですが、そのことでご相談が・・・。」
松江「ブーッ!!」
飲みかけていたコーヒーを思わず吹いてしまう。
社長「先生、汚いですよ・・・。」
松江「リコン!?社長、結婚していたんですか?」
社長「先生、そりゃないっすよ。私を欠陥人間のように言わないでくださいよ。私だって女房くらいいますよ。ただ、彼女超多忙だから紹介する暇もなくて。バリバリのキャリアウーマンで、よその会社の雇われ社長をやっているんですよ。」
松江「ああ、失礼しました。それでどんなご相談なんですか?」
社長「いや、離婚そのものは別に争いもなくて、私らには子供もいませんし、家は社宅ですから、預貯金だけ分けて終わりと、簡単に考えていたんですが、女房名義の会社の株式を買い取れと。しかも、私名義の株式も一部は自分に権利があるから分けろと言ってきたんですよ。」
松江「なるほど」
社長「なるほどって、落ち着きすぎですよ。私が起こした会社ですよ。確かに会社を起こしたのは結婚後だから、女房にも株式もたせましたよ。でもなんで私名義の株式までよこせって言うんですか。女房は会社には関わっていないんですよ。関係ないじゃないですか。」
松江「そうもいきませんよ。結婚してから築いた財産は。名義の如何を問わず、夫婦共有の財産として折半ですからね。」
財産分与と未公開株の買収請求
「納得がいかない!」、と大騒ぎする社長を帰して、とりあえず、預かった資料に目を通す。当該会社は、結婚後に社長が脱サラの退職金1000万と相続で得た1000万を元に築いたIT企業であり、社長本人の才覚もあり、急成長している。今期末の純資産額は約1億、そして不動産は特にもっていない。株式比率は、社長80%、奥様20%である。
この場合、まず、出資の比率から考えて、退職金は結婚後勤めた会社の退職金になるので、満額共有財産として、500万:500万。次に社長が相続で得たお金は満額、社長の特有財産であるから、1000万:0。結局、この会社の出資の寄与度は夫:妻で1500万:500万として75:25となる。名義の如何を問わず、この会社の株式の25%を寄こせという分与請求権を奥様はお持ちである。
その上で、奥様はもともと自分名義で20%の株式を持っているから、この株式を適正額で買い取れという権利があるのはもちろん、適正な寄与率との差である5%の夫名義の株式を離婚にともなう財産分与で、請求してくることももちろん可能である。さてどうしたものか。
未公開株式の価格をどう確定するか
まさか離婚した妻と株式を持ち合うわけにも行かないだろうから、とりあえず20%の株式を買い取るしか無い(この場合、会社が自己株として買い取るか、夫が妻から買い取るかによって、税金がだいぶ変わってくるが、その点は長くなるので割愛する)。
その上で、同価格で残りの5%の相当分を支払い、財産分与終了という合意をするしかあるまい。しかし、適正価格の策定はどうすべきか。
未公開株式の株価の確定について争うならば、非訟事件として、東京地裁なら、商事集中部の8部に係属することになる。未公開株式を持ち合う事態は、基本離婚や相続が原因であるから、商事集中部と言っても、この分野は結局、実態は家事事件だったりする。結構感情的な亀裂が原因となっていたりするのである。さて、問題は株価の算定方法である。
未公開株式の株価の算定はなかなか難しい。ごくおおざっぱに言えば、代表的なのは純資産額方式とDCF方式(収益還元法を緻密にしたもの)である。配当の実績にもよるので、一概には言えないが、誤解を恐れずに言えば、ほぼ純資産額方式の方が高額、DCF方式の方が低額となる。
ただし、純資産額方式というのは、会社の純資産を株式数で除して算出するものである。基本的に解散清算などの局面における財産の分配のときには該当するが、生きた会社の場合にはあまりマッチしない。鶏の産む卵ではなく、鶏を鶏肉として計測する考え方だと思えばよい。
これに対して、DCF方式は将来の配当予測で株価をとらえるものであり、先の例で言えば、将来鶏の産む卵の多さでとらえる考え方だとでも言えようか。2008年3月14日に東京地裁で決定が出された、上場廃止後のカネボウ株式の買取請求事件は、DCF方式を採用することを明言し、その後の1つのリーディングケースとなっている。
本件会社は、まだまだこれからの伸び率が期待され、もちろん解散の予定などないから、純資産額方式よりも収益還元を考えたDCF方式の方がマッチするであろうと思われる。
しかし、ベンチャー企業の特性として、不動産などの含み益のある資産が無く、一方で全く配当などしてこなかったことを考えると、配当還元方式もなんとなく現実と程遠い。基本的には純資産額方式で計算して、将来の配当可能性を加味するという考え方が妥当なのではないかと考えられた。
幸い、奥様の側にも代理人弁護士がついていたことから、このあたりのテクニカル的な発想は共有することができ、純資産額を基本とした算出方法を土台として、将来性を加味してうまく価格の合意をすることができた。最終的にはリーズナブルな金額で、株式を買い取ることで和解が成立し、離婚の問題はかたがついた。
社長「先生、今回は本当にありがとうございました。」
松江「よかったですね。彼女がきっちりと経済的にも独立していて、社会的にも活躍している方でしたから、早期に前向きな解決ができたと思いますよ。会社の資産を見直すきっかけにもなったし、感謝した方がいいですよ。闘いが終わった今となっては、一度は生涯のパートナーに選んだ方の今後の人生に幸多かれと祈りましょう。」
社長「肝に銘じます。あ、先生今度紹介したい女性がいるんです。宝石や毛皮の仕入れを手がけていて、有名ホテルにブティックも持っているんですよ。やり手でしょ。ちょっと、前の女房に似てるかな、へへへ・・・。」
松江「・・・。(懲りない奴)。」
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