解雇トラブルを防ぐには?

解雇トラブルを防ぐには?

はじめに

従業員を解雇する、というのは、会社の経営者にとっては、なるべく考えたくない、しかし時には組織のリーダーとして決断しなければならない、という最たるものの一つではないでしょうか。

日本は、諸外国に比べて解雇に対する規制が厳しいと言われています。単に解雇と言っても、普通解雇、整理解雇、懲戒処分としてなされる解雇とその種類は様々ですが、解雇の種類によって有効性の判断基準が異なります。たとえ問題社員を解雇したいと思っても、その実現にはいくつかのハードルがあるのです。

のちの解雇トラブルを防ぐためには、解雇の有効性がどのように判断されるのかを知っておく必要があります。

そこで今回は、解雇の種類ごとにその有効性の判断基準を見ていきたいと思います。

懲戒解雇

そもそも、懲戒処分とは、企業秩序や職場規律を維持するためになされる、秩序違反や服務規律違反などに対する制裁としての不利益措置を言います。その中で、最も重い懲戒処分が懲戒解雇です。

懲戒処分について、法律では、「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」(労働契約法第15条)と定められています。

要するに、労働者側に「懲戒処分されても仕方ない」と言えるような「懲戒事由該当性」があり、かつ「処分方法として解雇という手段も致し方ない」と言えるような「処分相当性」が必要ということです。以下それぞれ見ていきましょう。

(1)懲戒事由該当性

まず、法律が定める「使用者が労働者を懲戒することができる場合」とは、懲戒事由該当性を意味していますが、これは従業員の行為が懲戒事由に該当する場合を言います。つまり、就業規則で定められている懲戒処分の対象となる行為(懲戒事由)に照らして、その従業員の行為に対し、そもそも懲戒処分をすること自体が許されるかどうかという問題です。当然、就業規則で懲戒処分に関する規定が設けられていない場合には、懲戒処分を行うこと自体が許されません。

また、懲戒処分について、裁判所の判例では、「使用者が労働者に対して行う懲戒は、労働者の企業秩序違反行為を理由として、一種の秩序罰を課するものである」(最判平成8年9月26日)」と考えています。そのため、刑事罰に関する考え方が懲戒処分の場面でも参照されています。それゆえ、たとえ形式的には就業規則で定められている懲戒事由にあたるような場合であっても、1つの非違行為(※悪い行為)に対して複数回の処分をすることは許されません(二重処罰の禁止)し、行為当時は懲戒事由にあたらなかったものを事後的に懲戒事由として定めてこれを処分することも許されません(遡及処罰の禁止)。

そもそも懲戒処分が可能か、その行為が懲戒事由に該当するか、といった点の判断は、就業規則が出発点となってなされます。したがって、解雇トラブルを避けるためには、大前提として、しっかりと就業規則の規定を整備しておく必要があるのです。

(2)当該処分の相当性

次に、その処分が懲戒権の濫用とは認められないこと、すなわち、懲戒処分に「客観的に合理的な理由」があって、その処分が「社会通念上相当である」ことが求められます。処分の種類や程度は就業規則で定められている必要があります(労働基準法89条第9号)が、具体的にどのような場合にどの程度の処分をするかといった就業規則で定められていない部分は、会社側の裁量に委ねられることになります。

もっとも、懲戒解雇は懲戒処分の中で最も重い処分ですので、より軽い処分で済ませることができないほどの非違行為であると認められる場合にのみ許される、いわば「最後の手段」となります。

そのため、懲戒解雇が相当であるかは、当該非違行為の内容や経緯、会社に与えた損害の大きさ、処分歴、従業員の状況・反省態度などの具体的事情及び同様の事案における処分の前例などの諸般の事情を考慮して判断されることになります。

判例は、「懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為は、特段の事情のない限り、当該懲戒の理由とされたものでないことが明らかであるから、その存在をもって当該懲戒の有効性を根拠付けることはできない」(最判平成8年9月26日)として、懲戒処分の理由を後付けすることは認めていません。

したがって、会社としては、どのような非違行為があったのか、会社がどのような指導をしてきたのか、本人に対する事実確認の経過はどうであったのか、といった、処分に至るまでの経過がわかる資料を、その都度書面で残しておくことが重要です。懲戒処分が適正であるかを自身でチェックする契機にもなりますし、万が一のちにトラブルに発展してしまった場合でも証拠として非常に有用です。

さらに、非違行為に関する具体的事情のほかに、懲戒処分の手続についても注意が必要です。就業規則で懲戒処分を行うための手続が定められている場合には、その手続をしっかりと履践している必要があります。たとえば、就業規則では「懲戒処分を行おうとする場合は、当該従業員に対して弁明の機会を与えなければならない。」という旨の定めがあるにもかかわらず、弁明の機会を与えずに懲戒解雇をしてしまった場合には、その懲戒解雇は無効と判断されることになります。

解雇トラブルを回避するためには、その処分の種類や程度が懲戒事由に見合ったものであるかを慎重に検討したうえ、適正な手続を経ることが重要なのです。

整理解雇

整理解雇は、上記の懲戒解雇とは異なり、会社の都合でなされる解雇です。経営危機による人員削減や、事業再編に伴う人員整理などがこれにあたります。従業員に非があるわけではないので、解雇が有効となるかは、懲戒解雇の場合よりも厳しく審査されることになります。

整理解雇の有効性は、後述の①~④の、いわゆる4要件(あるいは4要素)と言われる条件を検討することで判断されています。なお、裁判所は近年、4要素説(下記の①~④のすべてを総合的に考慮する考え方。必ずしもすべての要素をクリアしていなくても有効性が認められ得る。)を採用する判決が増えてきましたが、4要件説(下記①~④の全てが必要であり、一つでも欠ければ解雇は無効となるという考え方。)を採用している判決もあり、どちらの考え方によるのかは明確ではありません。

しかし、いずれにしても、会社としては、下記(1)~(4)のすべてについて配慮する必要があります。

(1)整理解雇の必要性があること

解雇を行う経営上の必要があるか、という観点です。

会社の財政状況や新規採用の有無などが検討されます。たとえば、整理解雇を行い従業員を減らそうとしているにもかかわらず新規採用を行っているような場合、整理解雇の必要性が否定される方向に働くことになります。

(2)解雇回避努力義務を尽くしたこと

希望退職者の募集、配置転換、賞与の減額、役員報酬の減額、時間外労働の削減などの方策を尽くしたか、という観点です。

整理解雇が会社の都合で行われる以上、会社側は、従業員を解雇せずに乗り切るための手段を模索する必要があります。

(3)被選定者の合理性

整理解雇の対象となる従業員の選定が合理的か、という観点です。

能力・成績や解雇によって被る従業員の経済的不利益の程度などを考慮した客観的で公平な選定基準を設ける必要があります。また、その基準を公平に適用することも重要です。特定の従業員を排除することが目的であるかのような選定は、合理性が否定されることになります。ただし、個別の事情を考慮することは否定されません。

(4)解雇手続の相当性

解雇に先立ち、解雇の対象となる従業員への事前の説明や対象者との協議といった、相当な手続きを行ったかどうか、という観点です。

労働組合がある場合には、組合との協議が必要です。個別の面談や説明会での質疑応答、希望退職の勧奨などの解雇に先立つ事前手続を怠ってなされた整理解雇は、無効と判断される傾向が強いです。

普通解雇

普通解雇とは、上記以外の理由で解雇することを言います。

就業規則で定められた解雇事由(懲戒事由とは異なります。)に基づく解雇もこれにあたります。任務遂行能力の欠如や心身の故障などが解雇事由として定められていることが多いと思います。

解雇について法律は、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」(労働契約法第16条)と規定しています。

普通解雇の場合にも、解雇の理由とされている事実の内容や解雇に至るまでの経緯、手続の相当性など、諸般の事情が考慮されることになります。

能力不足が理由であれば、不足の程度がどのくらいか、具体的にどのような指導をしたのか、改善のための方策を講じたのか、他の部署への異動は検討されたのか、などが考慮要素となります。また、即戦力として採用された中途採用者なのか新卒採用者なのか、といった事情によっても考慮要素の重みは変わります。

解雇理由に応じて考慮されるべき具体的事情の内容や重みが変わるため、懲戒解雇や整理解雇よりもケースバイケースの判断がなされることになります。

もちろん、解雇予告(労働基準法20条)や解雇制限(労働基準法19条1項、男女雇用機会均等法9条など)に違反していないことが求められるのは言うまでもありません。

まとめ

以上のように、解雇の種類によって有効性判断のポイントはそれぞれ異なります。しかしながら、1点だけ、すべてにおいて共通するものがあります。それは、「解雇の有効性は解雇されるまでの事情をもとに判断される」ということです。

よく、従業員を解雇した後にトラブルが発生し、「従業員を解雇したんですけど、こんなトラブルを起こす奴なら解雇は大丈夫ですよね?」という相談をされる方もいらっしゃいますが、残念ながら解雇・懲戒処分をしてしまった後からそれを有効にする手段はありません。解雇・懲戒処分をするまでのやり取りがすべてなのです。

トラブルを回避するためには、解雇・懲戒処分をする前に、まずは専門家に相談することが何よりも大事です。

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