我が国の相続についての基本法制

我が国の相続についての基本法制

相続についての法の基本的な考え方

民法は第882条以下で相続について定めています。内容は多岐にわたりますが、一番重要な基本理念は、戦前の長子相続から、均等相続に変えたことです。長いこと日本の家族を規制してきた家制度がなくなり、個人を基調とした家族制度になったためです。このため、何も手をうたなければ相続のたびに財産は細分化されていくことになったのです。そのことから、遺産の分割においては複雑な利害関係が錯綜することになりました。

利害関係の調整としての特別受益と寄与分

相続人間の利益の調整として用意されているのは特別受益(903条以下)と、寄与分(904条の2)です。特別受益は、相続人の中で、故人の生前にすでに不動産やお金など、前もって財産をもらっていた人はそれを既に遺産の前取りとして調整するもの、寄与分は家業を手伝ったりして遺産の増加に努めたものには、この功績を評価して、相続分の調整を行うものです。

遺言の重要性

遺産は生前に故人が築いたものであり、その人生の成果です。そのことのために、逆に子孫が争うのでは何もなりません。法定相続分をどんなに決めていても、すべてが分割可能な現金だけとは限らないため、どうしてもすっぱり分けきれるとは限りません。また、家業やのれんなど、そもそも細分化するわけにはいかない、有形無形の財産もあります。

だからこそ、故人の最後の意思表示としての遺言が重要な役割を果たしてきます。しかし、遺言は実効性を持つときには遺言者自身がお亡くなりになっていますので、不明確なところがあっても、本人に本意を確認することができません。それでは逆に紛争を招くことになってしまいます。そのため、法は、厳しい定式を遺言に要求しています(民法960条以下)。もちろん、形通りに作成しても内容が、相続人達の争いを逆に招いてしまうこともありますから万能ではありません。生前に充分に家族間で話し合っておくことが必要なのです。

遺言をもってしても奪えない権利、遺留分

相続財産は故人が作ったものですから、故人が処分を決めるのが筋です。しかし、相続人達には、相続によって得られる財産への期待が存在します。この調整として機能するのが遺留分の制度です(1028条以下)。遺留分は減殺請求という訴訟を行わないといけないため、必ず利用されるとは限りませんが、これも、相続人間の利害を調整する大切な制度です。

相続からの解放 放棄と限定承認

近代市民法は個人の尊厳を基調としています。家制度が撤廃され、自由な個人としての価値観が根幹となった民法においては、相続を受けるも受けないも個人の自由となっています。そのため、相続から解放される手続きである相続の放棄についての規定が938条以下で規定されています。また、もらえるものがあればもらうが、何もないのであればもらわないという、マイナスだけを相続したくないという安全弁としての限定承認の制度も用意されています(922条以下)。

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