家賃の滞納への対策

家賃の滞納への対策

はじめに

家賃滞納があった場合、賃貸人の早い時期での対応が早期解決につながります。賃借人の支払いを何か月も待っていると、未払い賃料がどんどん膨らみ、全額の支払いを受けることが困難になります。また、長期間放置すれば消滅時効によって賃料を請求できなくなる場合もあります。

そこで、できる限り早急な対応が必要です。

対応の流れとしては、以下の流れとなります。

①催促

②訴訟

③強制執行

催促の方法

任意による回収方法

①賃借人に対する催促

法的手続きによる手段の前に、まず任意による賃料の支払いを試みることが考えられます。支払予定日を過ぎたら、まずは電話・手紙・訪問等で賃借人に催促してみましょう。また、内容証明郵便によって催促の書面を送付することが考えられます。内容証明郵便の送付は催促の有無の言い争いを防ぐことができ、また、正式な文書として賃借人に心理的プレッシャーを与えることができます。

②連帯保証人に対する催促

賃借人に対する催促を行っても支払う見込みがない場合には連帯保証人に対する催促も行いましょう。

なお、連帯保証人に関しては、民法改正(2020年4月1日施行)により、それ以降の連帯保証契約については、以下のようにルールが変更されましたので、念のためご注意ください。

※極度額の義務化

改正前までは、連帯保証人は債務をすべて支払う必要があり、例えば賃借人が不動産を全焼させた場合の損害等、巨額の損害も責任を負う必要がありました。

しかし改正後は、契約書面で極度額(上限額)を定めなければ契約は無効となります。極度額の設定は、一般的に賃料の24か月分が多いようです。その他にも改正された点がいくつかあるので、これを機に連帯保証契約の内容を見直してみましょう。

法的手続きによる方法

賃借人が任意に支払ってくれない場合は、法的手続きによることになります。

この賃料回収等の方法は、それなりの労力と費用、時間がかかります。なので、賃借人にお金が一切なく、支払い可能性が全くないことが明らかな場合などは、法的手続きを行っても何も得られず賃貸人の負担となる場合もあるので、法的手続きによって何を得たいのかは、それにかかる労力、賃借人の資力や対応をみて考えていくのが良いでしょう。

訴訟による方法

賃借人の対応が不誠実な場合や支払う態度がみられない場合には、未払い賃料の請求やさらに賃貸借契約を解除して賃貸不動産の明渡しを請求していくことが可能です。

賃貸借契約の解除

賃貸人は、原則として賃借人に対して未払い賃料の支払いを催告し、相当期間経過しても支払いがない場合には、契約そのものを解除することができます。

ただ、賃貸借契約は賃貸人と賃借人の信頼関係の上に成り立つものなので、信頼関係の破壊されたといえる事情が認められない限り、契約の解除は認められないとされているので、以下の通り、「信頼関係が破壊されているかどうか」について注意する必要があります。

信頼関係破壊の判断要素

賃料不払いによって信頼関係が破壊されたか否かは、不払いの程度や、不払いに至った事情などを考慮して判断されます。一般的には、賃料3か月分の滞納で信頼関係の破壊が認められることが多いですが、賃借人の延滞に正当な理由がある場合、延滞解消の可能性が高い場合等の事情があれば、いまだ信頼関係が破壊されないと判断される可能性があります。

したがって、訴訟前に事前に賃料滞納の程度や、延滞に至った経緯、延滞解消の可能性があるかなど可能な限り調べ、どのような請求をどのように争っていくか判断していくことになります。

強制執行

訴訟で、勝訴判決や和解(※裁判所での和解。判決と同じ効力がある)が得られても、未払家賃が自動的に回収できるわけではありません。

また、賃貸借契約の解除によって、不動産の明渡しを請求していた場合でも、勝訴判決や和解を得たからといって、直ちに実現できるわけではありません。

判決や和解によって、相手の義務は確定しますが、相手がきちんと義務に従って行動することが必要です。

では賃借人が、判決や和解の内容に従わず、支払いや明渡しを拒んだりした場合はどうするか。そのような場合は、最終的には裁判所によって強制的に判決等の内容を実現していくことになります。これが強制執行です。

強制執行とは、債務名義(判決文や和解の内容を記した調書のこと)を得た賃貸人の申立てに基づいて、未払家賃の回収を裁判所が強制的に実現する手段です。

賃料の回収

賃料の回収については、不動産、給与、預金、生命保険、動産の差押えを行います。そのうえで差し押さえた財産から直接取立てることにより、滞納した家賃を回収することになります。

不動産の明渡し

不動産の明渡しの強制執行については、まずは明渡しの催告をしたうえで、ギリギリまで相手の任意の明渡しを促し、それでもダメな場合には、明渡しの断行(※強制的に不動産から退去させること)を行うという流れになります。

①明渡しの催告

明渡しの催告とは、事前に執行官(※実際に強制執行を行う裁判所の担当者)と打ち合わせて催告する日を決めて、当日に執行官・立会人・賃貸人又はその代理人・執行補助者・鍵技術者(合鍵を持っていない場合に必要となります)らが賃貸不動産の建物の占有状況を確認し、賃借人に対し明渡す旨を伝えて、催告書を部屋に貼り付けます。催告書には、明渡し期日・占有移転の禁止、明渡しの断行日を記載します。

②明渡しの断行

明渡し期日を過ぎても明渡しが行われない場合には、明渡しの断行を行います。これは、執行人らが部屋の中にある家具をすべて運び出し、鍵を変更することです。運び出された荷物は執行官が指定する保管場所に保管され、一定期間内に賃借人が引取りに来ない場合には売却または廃棄されることになります。

賃貸人による実力行使はダメ

上記のような法的手続きを取らずに、賃貸人が無理矢理取り立てたり、追い出したりするような行為は行ってはいけません。

気持ちは分かりますが、こうしたことを行うと、違法な実力行使と評価され、逆に賃借人から損害賠償請求をされる場合や警察沙汰になることもあるので、回避しましょう。

具体的には以下のような行動についてご注意ください。

自力救済(※権利者による実力行使のこと)の禁止

法律上、自力救済は原則的に禁止されています。つまり、賃貸人の取立行為(鍵交換、家財撤去、張り紙、執拗な督促など)は、事前に契約書などで取立行為等を許容する条項に合意している場合でも、緊急やむを得ない特別な事情があるとか、社会通念上相当とされる限度であるといった事情がない限り違法となります。これら取立行為が、不法行為の要件を満たすと賃借人から損害賠償を請求される可能性があるので注意が必要です。

したがって、時間や費用はかかりますが、強制執行手続きによって適法に取立てなどを行う必要があります。

残置物の処分

賃借人が夜逃げした際に、賃貸不動産の部屋内に残された荷物を、賃貸人が勝手に処分する事も違法となるおそれがあります。

この場合、部屋に残された物の所有権は、夜逃げした賃借人にあります。したがって、民事上の責任としてそれを勝手に処分することは違法ですので、その損害を賠償する可能性があります。また、刑事事件としても、器物損壊罪・や窃盗罪、また部屋に入ったことで住居侵入罪といった犯罪が成立する可能性があります。

したがって、賃借人を発見できた場合には自分で残置物の処分をさせるか、所有権放棄の合意などをすることが考えられます。もっとも、夜逃げして居場所が分からない場合であっても、上述の法的手続きを経て適法に対応するしかありませんが、その場合でも、そう悲観することはありません。

夜逃げなどで行方不明となっている相手に対しても、一定の手続を踏めば、きちんと訴訟や強制執行といった法的手続きを行えるのです。その場合、相手は行方不明になっているので、当たり前ですが何の反論も抵抗もしてこないので、通常の場合と比べて驚くほどスムーズに事が進みます。

このような観点からも、やはり適切な手順を踏んだ方が結局は良い結果になるのです。とはいっても、やや特殊な手順や手続きが必要にはなるので、相手が行方不明の場合は、一度弁護士に相談してみるのが良いでしょう。

滞納対策

ただ賃貸人にとって一番良いのは滞納が生じないようにすることです。

賃貸借では、予測できない事情で家賃滞納に至るケースもあります。そのようなリスクを完全に回避することはできないため事前の対策を十分に講じておく必要があります。

入居審査基準

職種や年収など継続的な支払い能力があるか慎重に判断するため、あらかじめ入居審査基準を設けることも考えられます。もっとも、厳しすぎると入居希望者が見つからない可能性もありますので、バランスのとれた入居審査基準が必要です。

家賃保証会社か連帯保証人

先ほどの説明のとおり民法改正で連帯保証人の責任は制限され、また連帯保証人が支払ってくれない可能性もあります。そこで、家賃保証会社を活用することで賃料支払いが保証され、賃料回収が確実なものとなります。

定期借家契約

定期借家契約の場合、契約期間が満了した段階で退去を求めることができます。これにより、長期の賃料不払いを防止することができます。

敷金の充当

賃貸借契約中に家賃の滞納があれば、契約終了前でも充当できます。充当しなければならないわけではないので充当せずに催促等することも可能です。敷金の有無、金額についてはよく考えて設定しましょう。

弁護士に依頼するメリット

賃借人が訴訟の中で、賃貸借契約が存在しない、賃料を支払った、信頼関係が破壊されていないなどとして法律的な争いが生じることがあります。こういった争いごとを弁護士が代理人となることで、時間や賃貸人の心理的負担が軽減されますし、認められるべき主張が認められなくなってしまうといった事態を防ぐことができます。

また、催促までは賃貸人が自分でできても、法的手続きを進めていくには法律の専門家である弁護士に依頼する方がスムーズに解決できます。自分で行動して違法と評価される前に、まずは弁護士の無料相談を活用して、お気軽にご相談ください。

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